『SAKAMOTO DAYS』から『レオン』まで “殺し屋”ד家族・子供”はなぜ人気なのか?

殺し屋と家族の組み合わせはなぜ人気?

インモラルを“共感”に書き換える

 本来、「殺し屋」の行動……暴力や殺人は非倫理的であるが故に支持されない。しかし、その力を“誰のために使うか”によってヒーローとして応援される存在になるのだ。復讐がテーマの作品も、それを行うに十分な動機があるから観客は安心して悪者がやっつけられるシーンを楽しめる。『ジョン・ウィック』のジョン・ウィックも最愛の亡き妻からの贈り物である愛犬を殺されたことをきっかけに、引退したはずの殺し屋の世界に舞い戻っていく。多額の懸賞金をかけられて多くの殺し屋に命を狙われる展開も含め、坂本太郎と重なる部分が多いキャラクターとも言える。しかし、坂本はどちらかと言えばジョン・ウィックの幸せな“if”ver.的存在だ。 

 愛する家族を、そして彼らと過ごす「坂本商店」を守り続けるために坂本は拳を振りかざす。ここでの家族とは、妻の葵、娘の花だけでなく、「坂本家の家訓」を守る朝倉シンやルー・シャオタンのことも含む。そうやってどんどん家族以外の“守りたいもの”が増えることで本来なら「殺し屋」は弱くなるが、『SAKAMOTO DAYS』はそれが強さになると主張するのだ。坂本が劇中、仲間を“ちっぽけ”と罵った敵に対し、「まわりの人を大切にできないやつは何も成し遂げられない」と説くシーンがある。孤独だった殺し屋だからこそ、人と人との繋がりの重要性を説く上で説得力を持たせることができ、それと同時に他の殺し屋との差異を描くことでそのキャラクターの人間的成長が浮き彫りになる。

 これは『SPY×FAMILY』にも、『Buddy Daddies』にも通ずることだ。殺し屋のヨルはアーニャを、そしてフォージャー家という居場所を守ろうとする。男2人の殺し屋バディ、一騎と零も暗殺任務に向けていた力を保護した幼女ミリの世話に向ける。漫画『幼稚園WARS』は“魔女”と呼ばれ恐れられていた殺し屋の主人公が園児を守るために敵と対峙するが、徐々にそれは同じように園で働く仲間たちと過ごす時間や居場所を守るためになっていく。殺意の矛先とその動機づけとして家族(仲間)や子供の存在は「殺し屋」作品に不可欠であり、キャラクターのドラマをより味わい深いものにするのだ。しかし、このテーマの作品が人気である本当の理由はその先にあるのかもしれない。

観客や読者と共に悩み続け、成長していく

 あえて倫理について先述したが、いくら家族を守るためとはいえ、解決に暴力が伴っている時点でモラル的にそれが正しいと言えるのだろうか。それでも自分の子の命が脅かされたら、“何をしてでも”守りたいと思ってしまう。そんな綺麗事では片付けられないさまざまな感情や葛藤を、「殺し屋」の彼らは抱え続けていくのだ。

 別に、誰かを守る守らないに限定した話ではない。歳を重ねれば重ねるほどままならない選択に、私たちは日々悩む。特に子供が登場する作品では“子育ての正解”とは何か、慣れない「殺し屋」の彼らが悩み続ける姿に、子を持つ親の立場にいる観客や読者は共感するだろう。そして、作品内での彼らの成長に胸打たれる。親でなくても、他者とのコミュニケーションや、距離感、繋がり方、その繋がりを大切にする方法など「殺し屋」が抱える悩みに通じるものはいくらでもある。いや、むしろ彼らが誰かとの出会いを通して、こうした一般的な悩みを抱えるようになるのだ。そんな答え探しの中で、急に聖人君主になったり置いてけぼりにしたりせず、観客や読者と共に葛藤し模索し続けてくれる。「殺し屋」がテーマの作品には、そんな人間くさい魅力もあるのではないだろうか。

 もちろん、それはこのテーマの作品に限定された魅力というわけではない。むしろ一般的なヒューマンドラマ作品において描かれるようなことだと言える。それでも、普段は人を大胆かつ無感情に殺す彼らの物語だからこそ、よりそういったraw(生)な葛藤やドラマが堪能でき、それが心に響くのではないだろうか。

 常に生と死と隣り合わせで、日々正解がわからない中もがき、時には成長して、周囲の人間(社会)を大切に、そして平穏な日々を過ごすことを目標とする。殺人とか任務とか銃声とか非現実的でしかないけれど、そんな私たちの生活は、『SAKAMOTO DAYS』を筆頭とする多くの「殺し屋」作品における戦闘シーン抜きの“日常”と、実はあまり変わりないのかもしれない。

■放送情報
『SAKAMOTO DAYS』
テレ東系ほかにて、毎週土曜23:00〜放送
Netflixほか各プラットフォームにて配信
キャスト:杉田智和(坂本太郎)、島﨑信長(朝倉シン)、佐倉綾音(陸少糖)、東山奈央(坂本葵)、木野日菜(坂本花)、鈴木崚汰(眞霜平助)、花江夏樹(南雲)、八代拓(神々廻)、早見沙織(大佛)
原作:鈴木祐斗(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:渡辺正樹
シリーズ構成:岸本卓
キャラクターデザイン:森山洋
制作:トムス・エンタテインメント
オープニング・テーマ:Vaundy「走れ SAKAMOTO」(SDR/Sony Music Labels Inc.)
©鈴木祐斗/集英社・SAKAMOTO DAYS 製作委員会
公式サイト:https://sakamotodays.jp
公式X(旧Twitter):@SAKAMOTODAYS_PR
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@sakamotodays_pr

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