『オク氏夫人伝』を大成功に導いたイム・ジヨン “痛快なしぶとさ”が独自の魅力に

 2023年のドラマ『ザ・グローリー 輝かしき復讐』で演じたヨンジンは、こうして蓄積されてきた演技の成果が最も明確に現れていた。本作では、壮絶な校内暴力で人生を破壊され、成人したのち加害者たちを徐々に追い詰め復讐していく主人公・ドンウンが「ヨンジン……」と加害者の主犯ヨンジンへ語りかけるモノローグが頻発する。そのことからも分かるように、ドンウンにとってあらゆる生きる希望を失った中でもヨンジンへの感情だけが生きている実感だ。だからヨンジンを演じるには、ただ暴力的でも、性格が悪いだけでもふさわしくない。些末な悪事は、彼女の手下の仕事だ。口の端だけ歪ませて表情を作り、はしゃぐような声の中にどこか脅すような低音が混じる。人間の心の底が見えないようなヨンジンは、どれほど窮地に立たされても謝罪せず、純然たる悪だった。ゆえにイム・ジヨンによるヨンジンは、ドンウンが人生を懸け、恋焦がれるような気持ちで憎悪される相手としての風格があった。

ヨンジンに復讐を止める最後の"チャンス"をあげるドンウン | ザ・グローリー ~輝かしき復讐~ | Netflix Japan

 『オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-』の終盤、とうとう正体がバレてしまったテヨンは、クドクだった頃の主人の家へ連れ戻されてしまう。尊厳を失い、大切な家族と離れ離れになったことで初めは生きる気力を失っていたが、外知部時代に助けた人々の尽力により、悪人たちを再び裁くきっかけをつかむ。チャンスが到来していることを知った瞬間、決意に満ちた眼差しでじゃがいもを貪るクドクの凄みある“モッパン”(食事シーン)は、イム・ジヨンの過去作『庭のある家』での伝説的ワンシーンを蘇らせた。

 暮らしぶりの全く異なる二人の女性が、ある殺人事件をきっかけに運命が交錯していく本作で、イム・ジヨンが演じたサンウンは夫から凄惨なDVを受ける平凡な主婦だった。しかし、暴行を受けて嘆き悲しむ被害者というよりも、状況に対する虚無感と、いつかは夫に復讐してやりたいと画策する複雑な内面をみせる血肉を持ったキャラクターだった。そんな彼女が夫の不可解な死後、それまでイチゴアイスばかりを口にしていたのを止め、解放されたかのようにチャジャンミョンやタンスユク(酢豚)、餃子を貪欲に食べる。怖いほど生命力に満ちていて、『ザ・グローリー 輝かしき復讐』に続き百想芸術大賞の助演女優賞候補に上がったのも納得だった。

 次の出演作と予定されている『憎たらしい愛』では、政治部で成功しながらも汚職事件を捜査したことで芸能部に左遷された女性記者を演じるという。またもや“負けたままではいるものか”という女の逆襲を見せてくれるようだ。淑女にも悪女にもなれる、途轍もないポテンシャルの表現者、イム・ジヨンだからこその痛快なしぶとさを期待している。

参照
※ https://www.news1.kr/entertain/broadcast-tv/4993954

■配信情報
『オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-』<全16話>
U-NEXTにて独占配信中
出演:イム・ジヨン、チュ・ヨンウ、キム・ジェウォン、ヨンウ
演出:チン・ヒョク
脚本:パク・ジスク
韓国/2024年
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