吉村界人&藤原季節、“ボクサー役”で交差する現在地 対照的なスタイルが生む演技の深み

さあ、ここから一気に彼らの存在に肉薄していこうと思う。俳優という存在は何をもってして「俳優」となり得るのだろうか。用意されたセリフをうまく言えたらそれでいいのか。ボクサー役を演じる者として、ボクサー的な振る舞いさえできればそれでいいのか。そんなことはない。『阿修羅のごとく』と『Welcome Back』を観た方ならば分かるだろう。藤原と吉村が演じる英光とテルは、そういった雑なボクサー像とはかけ離れた存在だ。
粗野な性格のテルと人気ボクサーとして慢心しているフシのある英光は、ともに気鋭のボクサーであり、「負けたくない」「勝たなければならない」という精神を持っている人物だ。そこにはまず、英光とテルという架空の人物がこの世に存在しているのだと観客を信じさせる身体がなければならない。俳優はカメラの前だけで役を演じればいいわけではないのだ。カメラは俳優が演じるキャラクターの日常やバックグラウンドまでも収めてしまう。
だから俳優は、己の日常までも役に合わせて変えていかなければならない。プロボクサーの役ともなれば、そこにどれだけの困難があることか。想像しただけでも頭がくらくらするというものだろう。しかも演じるのはリングの上だけではない。英光にもテルにも、リングの外の生活があるのだから。藤原と吉村は、プロボクサーの日常を生きなければならないのだ。ファイトシーンだけでなく、それぞれの日常における一挙一動にこそ、演技者としての表現がつまっていると私は思う。
劇中で英光とテルがどんなラストを迎えるのかまでは言及しない。それはあなたの目で確かめてほしい。ただ私がここで述べておきたいのは、何事も続けていくのには大変な困難をともなうのだということ。これはボクサーだけの話にかぎらず、どんな職業だってそうだ。もちろん、俳優だってそう。多くの俳優の存在によってエンターテインメント界は成り立っているが、果たして誰がどこまでプロとしてリングに立ち続けられるか。厳しい世界だ。
しかし、平成の終わりからから令和にかけて並走してきた藤原季節と吉村界人は、俳優としてリングに立ち続けてきた。そして、作品は違えどボクサーとして、いまもリングに立っている。精神的にも肉体的にも紛れもなくボクサーである彼らの姿を目にしたとき、熱いものが込み上げてきた私はガッツポーズをせずにはいられなかった。ずっと彼らを見続けてきたからだ。これが俳優の、エンターテインメントの、力だと思った。そんな世界の中心に、ふたりは立っているのである。
■公開情報
『Welcome Back』
公開中
出演:吉村界人、三河悠冴、遠藤雄弥、宮田佳典、優希美青、松浦慎一郎、テイ龍進、菅田俊
監督:川島直人
脚本:川島直人、敦賀零
撮影:岩渕隆斗
製作・制作会社:GunsRock
配給:パルコ
2024年/日本/DCP・BD/カラー/119分/シネマスコープ/ステレオ
©2025 GunsRock
公式サイト:https://welcomeback-movie.com/
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