杉本穂高の「2024年 年間ベストアニメTOP10」 「原作を尊重する」とはどういうことか
オリジナル作品では、山田尚子監督の『きみの色』と『ガールズバンドクライ』(以下、『ガルクラ』)が気を吐いた。山田尚子という天才をどう活かすのか、市場原理だけでは難しいことが証明されたと言えるが、国際マーケットは彼女のような才能も求めている。今後は映画祭などを通じたマーケットの開拓もより促進する必要がある。『ガルクラ』はルックの開発という点でも注目に値する。今後、セルルックに囚われない多彩なCGアニメが国内からも生まれる胎動を感じた年でもあった。
CGアニメ以外でも、ルックの独自性を追求した『劇場版 モノノ怪 唐傘』と旧作ではあるが『傷物語 -こよみヴァンプ-』(以下、『こよみヴァンプ』)の2作も強いインパクトを残した。絵柄には無限の可能性があるのだ。『こよみヴァンプ』に関しては、日本独自の「総集編映画」というものの存在意義についても考えさせてくれた。総集編はただの再利用ではなく、作品を別のものとして生まれ変わらせることができるのだ。
海外アニメーションからは『リンダはチキンがたべたい!』(以下、『リンダ』)、『めくらやなぎと眠る女』(以下、『めくらやなぎ』)、『ロボット・ドリームズ』をチョイス。いずれも格調高い作品でユーモアもあり、楽しい作品だった。海外のインデペンデントアニメーションの市場が国内でも伸びつつあるのは嬉しいことだ。
ところで、『リンダ』と『めくらやなぎ』を制作したフランスのMIYU Productionsは、『化け猫あんずちゃん』にも参加しており、ベスト10に3本も作品を送り込んでいることになる。質・量ともに、今最も充実しているスタジオと言えるかもしれないが、2025年には四宮義俊監督の『A NEW DAWN(英題)』も控えているので、こちらも期待したい。
『化け猫あんずちゃん』は驚くほどに山下敦弘映画だった 実写×アニメの良さが活きた快作
山下敦弘監督と久野遥子監督の共同作『化け猫あんずちゃん』は、実写映画好きもアニメ好きもどちらも面白がれる作品だ。 本作は、実…
その他、トピックとしては『クラユカバ』の塚原重義監督、『数分間のエールを』のぽぷりか監督など、短編やMVなどの領域で活躍するインディーズ作家が長編に挑むケースが出でてきた点も注目したい。来年も安田現象監督の『メイクアガール』もあり、この流れを促進できると、個性的なアニメ作品も増えていくだろう。原作ものに対抗するオルタナティブな道を作るためにも、これらインディーズ作家の活躍は重要だ。
2024年もたくさんの素晴らしい作品に出会えた。来年、どんな作品に出会えるか今から楽しみだ。
参照
※ https://aja.gr.jp/info/2419