『海に眠るダイヤモンド』音楽・佐藤直紀の仕事術 「本当のフィクションって実は音楽」

音楽・佐藤直紀が『海に眠る』を語る

 TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の音楽を担当する佐藤直紀のインタビューコメントが公開された。

 本作は、昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ、70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大な物語。1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京が舞台となる。

 一人二役で主演を務めるのは、民放連続ドラマ主演は2011年放送の『11人もいる!』(テレビ朝日系)以来13年ぶりとなる神木隆之介。脚本に野木亜紀子、監督に塚原あゆ子、プロデューサーに新井順子と、『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(TBS系)、映画『ラストマイル』を生み出してきたチームが再集結した。

 本作の音楽を担当するのは、映画『ゴジラ-1.0』をはじめ、『GOOD LUCK!!』(TBS系)、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』など数々の作品で劇伴を手掛けてきた佐藤。本稿では、佐藤が本作での制作秘話や、劇伴の役割について語っている。

 本作の劇伴制作は7月の中旬ころからスタート。そのころはクランクイン前だったため、まずは台本を読み込みイメージを膨らませたという。

「壮大な物語、それからシリアスな側面もある脚本なので、もし僕のイメージだけで作るのならもっとスケール感と重厚感たっぷりの音楽になっていたかも。塚原あゆ子監督の“希望”や“当時の活気を再現したい”“ワクワクするような音楽が欲しい”とのリクエストをいただき、前向きで躍動感あるキラキラした音楽を目指しました」

 キャストがクランクインし撮影が始まると、制作途中の短い動画が届き、その映像から感じとれた作品の空気感も作曲するうえでヒントになったという。

 ドラマの音楽制作と聞くと、扱う題材を綿密に調べて作品の世界にどっぷり浸かりながら行うのかと思いきや、「僕の場合、あまりにも深く調べすぎて題材にのめり込んでしまうと、独自の解釈が強くなってしまい、作品が伝えたいこととのギャップができてしまうことがあるんです。なので、あくまで制作の最終ヒントとしては、監督とプロデューサーの思い、脚本、それからもし映像があるのであればそこから感じられる空気感と匂いです」と、作品との向き合い方を明かす。

 さらに、「制作中は夢中になって取り組んでいるのですが、ずっと入り込んだ状態でいるといつの間にか自分でも気づかないうちに本来の趣旨とはズレた方向に進んでしまうことも。必ず客観的に確認する時間を取り、『本当にこの音楽で合っているのか?』と常に自問自答を繰り返し、自曲を疑いながら作業を進めています」と、制作過程についても触れた。

 佐藤が劇伴を作曲するうえで常に意識しているのは、“作品との距離感”。映像やストーリーに対して、どの程度の距離感で作曲するか気をつけているという。

「感覚的なものなので伝わりづらいかもしれませんが、本作に関しては少なくとも主観的ではないかもしれません。主人公のナレーションがあることで、俯瞰の立場からドラマを見ている印象がありました。音楽もそれに合わせて、寄り添いすぎず、音楽が物語を上から照らしている感じをイメージしました」

 佐藤は今回の楽曲について「民放ドラマの音楽としては少し突き放した感じがあるかもしれない」と振り返りつつ、「もっとわかりやすく感情移入しやすい音楽にもできましたが、素晴らしい脚本を音楽が過剰に説明する必要はないと思って」と、制作の方向性を口にする。さらには、「この作品が、このストーリーが、この映像がどんな音楽を求めているのかを探り、固定概念にとらわれず、時に恐れず挑戦する。作品にとって唯一の音楽を目指して作曲しています」と、自身の姿勢を明かした。

 塚原監督のアイデアで現代の登場人物が過去を振り返る、アメリカ映画『タイタニック』と似た構図で進む構成になっていることについては、「第1話で船から端島が見えてくるときに流れた曲では、同映画の音楽でも使われたティンホイッスルという楽器を使用しています。でも、もし監督からその話を聞いていたらティンホイッスルは使っていなかったと思います。その勇気はありません。あまりにもベタで恥ずかしいですからね(笑)」と、偶然のエピソードも飛び出した。

 また、佐藤は劇伴の立ち位置について次のように語る。

「ドラマの中で、唯一の本当のフィクションって実は音楽なんです。作品自体はフィクションですが、俳優がしゃべるセリフは“存在”していますし、海があれば波の音など、映像に映る実在するものの音が入っています。そんな中、唯一そこに“存在”しないものが音楽。だからこそ、劇伴が視聴者の感情の動きに寄り添い、そっと思いを肯定する重要な役割になっているのかもしれません」

 視聴者の感情を左右する力を持つ劇伴だからこそ、「僕は音楽でそのシーンの感情や状況を決めつけることをしたくない」と語る佐藤。「だからこそ、どんな曲でもその裏にある感情を炙り出せるようにしています、常に楽しいだけ、怖いだけじゃない。楽しい感情の中に切なさがあったり、悲劇的な曲の中にもどこか希望を感じられたり、裏の感情を隠し入れることで、音に深みが出る。それが映像と合わさることで、人間の多面的な感情を匂わせることができるんです。正直皆さんにどれだけ伝わっているかわかりません。ただ、作り手として、物語の上辺をひたすらなぞるような耳障りが良いだけの音楽にならないようこだわっています」と、楽曲に仕込むエッセンスについても言及した。

 映画音楽では佐藤ら作曲家が撮影や映像を見ながら監督と相談し、どこのシーンでどんな音楽をかけるかを細かく決めるそうだが、ドラマでは作曲家は完成映像を見る前に全ての楽曲を納品し、「選曲」という担当者がどの楽曲をどの場面で使うのかを決める。本作での音楽の使われ方は「驚きばかりで面白い」ようだ。

「『この曲はあのシーンに当たるだろうな』と想定しながら書いているのですが、本編では全く違う使われ方をしていて。でも、これがドラマ音楽の面白さでもある。映画音楽の場合は事前の相談から変わることはほとんどありませんが、ドラマは選曲担当の使い方次第で作品がガラッと変わる。僕とは別の発想がそこに乗っかるので、新たな発見があるんです。今回は僕の音楽演出表現の幅をさらに広げてくれるような感覚があり、とても勉強になっています」

 佐藤は本作の選曲担当・遠藤浩二のことは以前から知っていたそうで、「作曲家としての遠藤浩二さんはもちろん存じていましたが、選曲家としても活動されていることを今回初めて知り驚きました。作曲家に選曲をしてもらうということは、監督が別の監督兼編集の人に編集を任せるようなもの。そういったことは初めてだったのでどうなるのかな……と思って」と当時の心境を吐露。「でも、完成映像を見て、遠藤さんが作曲家の立場になって曲を当ててくださっていることがわかりました。おそらく作曲家同士にしか伝わらないかもしれませんが、構成と編集が気持ち良かった。すごくうれしかったです」と、遠藤への信頼を語った。

 「ここ数年は視聴者がどう捉えるかというのは敢えて気にしないようにしています」と口にした佐藤。

「昨今、ドラマや音楽に限らず、エンターテインメントの受け止め方がこれまでと変わってきているように感じます。さまざまなコンテンツを気軽に視聴する機会が圧倒的に増え、見る側のレベルは非常に高い。だからこそ、こちらが『こういうのが好きでしょ? 喜んでくれるんでしょ?』みたいに顔色を伺うような、魂のこもっていない曲を書こうものなら簡単に見透かされてしまうし心に響かない。自分が信じる最良の音楽を勇気を持って書き、視聴者の皆さんに『これが僕が思う今一番格好良い音楽なんだよ』と提案する。そういったエンタメの作り方が伝わるようになったと思います。本作はそれを怖がらずにぶつけさせてくれる素晴らしい土台があり、とてもありがたかったです」

 「初めてドラマの劇伴を手掛けた『GOOD LUCK!!』のときとは、サウンドもアプローチ法も全く変わっています」と佐藤は自身のドラマ劇伴・処女作を振り返る。そこから数々の作品に携わってきた佐藤だが、制作中には今でも頭を抱えることがあるのだという。

「毎回、全然書けない……どうしよう。逃げちゃおうかな(笑)、と思いながら制作しています。正直めちゃくちゃ苦しい。僕は今年54歳で、これからいくつ仕事ができるかわからない。だからこそ、1つひとつ自分が作曲する意味を見出したいと思っています」

■放送情報
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、中嶋朋子、山本未來、さだまさし、國村隼、土屋太鳳、沢村一樹、宮本信子、尾美としのり、美保純、酒向芳、宮崎吐夢、内藤秀一郎、西垣匠、豆原一成(JO1)、片岡凜
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介
プロデュース :新井順子、松本明子
スーパーバイザー:那須田淳、岡崎吉弘
音楽:佐藤直紀
編成:中井芳彦、後藤大希
製作:TBSスパークル、TBS
制作協力:NBC長崎放送
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/
公式X(旧Twitter):@umininemuru_tbs
公式Instagram:umininemuru_tbs
公式TikTok:@umininemuru_tbs

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