『六人の嘘つきな大学生』はなぜ2部構成なのか? ミステリージャンルのその先へ
ミステリーの先で肯定したもの、真のミッションとは
本作はミステリーを否定するミステリーである。しかし、だからといってこの作品は否定だけで終わっているわけではない。それを考えるヒントは、実は大学生たちが最初に課せられたミッションにある。そう、6人でチームを作ること……互いをよく知り、長所を活かし短所を補うような集団となることだ。
スピラリンクス社が大学生たちに課したこのミッションは、表面的には最終選考の方法が変わった時点で撤回されている。仲を深めた後で1人を選べというのだからひどい話だ。けれどその一方、最終選考で彼らの過去が暴露されることは「互いを知る」行為には変わりない。大学生の1人、赤楚衛二が演じる波多野は6人の友情が壊れないようにと腐心するが、これは社会的には無意味だとしても最初のミッションを遂行し続けようとする愚直な行為と見ることもできるだろう。逆に言えば推理ごっこと犯人探しに興じ、疑心暗鬼で不信感を募らせることはこのミッションの失敗でしかない。犯人が分かれば表面的には問題は解決するが、本当はそこには何の意味もないのだ。一般的なミステリーの展開に陥った時点で大学生たちは敗北していたのだった。
大きな尺をとって描かれる事件の「その後」、時を越えて明かされる6人の嘘に隠された秘密がもたらすもの。それは最終選考で失われてしまったチームの一体感の回復である。互いを知ることで失われた信頼がさらに互いを知ることで変化し、同時に彼らはそれぞれが互いについてなにも知らなかったことを知る。
そしてそれにもかかわらず、自分たちが見ていた互いの姿が信頼に足りるものであったことも知る。それは選考の合否だとか生き死に、会社に課せられたかどうか等を超越して彼らがミッションを達成した瞬間と言えるだろう。だから本作は密室の会話劇だけで終わらず、真犯人を暴いて終わらず、「その後」を大きく描く物語でなければならなかった。ミステリーを、そして人間を否定するようで肯定しているのが本作の奇妙な2部構成の所以なのである。
「人間は月と同じでふだん見せているのは表側だけ、裏側はけして見えない」——劇中で印象的に語られるこの言葉が一つではない解釈ができるように、私たちは人の裏を見ることはできない。いや、裏の全てを見ることはできない。だが、全てを見なければ人は信用できないものだろうか?
人を見ることがいかに難しく、けれどそれが人間のつながりを否定するものではないことをこの馬鹿馬鹿しくも切実な事件を描いた物語は教えてくれている。キャスト面でも浜辺美波をはじめとした人気俳優陣は大学生たちの異なる個性を印象的に演じており、2度目に観るときは小さな仕草から発見できることも多いはずだ。人間のことを分かったつもりになってしまったそのときこそ、観てみてほしい一作である。
■公開情報
『六人の嘘つきな大学生』
全国公開中
出演:浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠ほか
原作:浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川文庫刊)
監督:佐藤祐市
脚本:矢島弘一
配給:東宝
©2024「六人の嘘つきな大学生」製作委員会
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