『無能の鷹』はなぜ視聴者の心を掴んだのか? 菜々緒演じる鷹野の名言に笑って癒やされる
11月29日に最終回が放送される、テレビ朝日系金曜ナイトドラマ『無能の鷹』。圧倒的な“デキるオーラ”を醸し出し、いつも同期の鶸田(塩野瑛久)の上司と間違われる鷹野ツメ子(菜々緒)。実際は、衝撃的なほどの“無能”ぶりで、社内ニートとなっている鷹野は、全く成長しないまま、気づけば入社して1年が経とうとしていた。
そんな鷹野と、ITコンサルティング会社「TALON」の同僚たちの日常を描き、多くの視聴者の心を掴んでヒットしている『無能の鷹』。本作の放送前に筆者は、主演の菜々緒に加え、『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)などを手掛けてきたプロデューサーの貴島彩理、そして『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)や、現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』でも知られる人気脚本家・根本ノンジが組むことによって、面白くならないわけがないというコラムを書いたが、本編が始まると、期待を遥かに上回る面白さで楽しませてくれただけではなく、毎回大笑いしながら観終わった後に、癒やされていることに気づくドラマになっていた。
鷹野は本当に何も仕事をしておらず、デスクでは猫の動画を観ているだけなのだが、一生懸命に営業の仕事を頑張ろうとする鶸田と一緒にクライアントとの打ち合わせに出向くと、適当に発しているとしか思えない彼女の言葉が、なぜか相手に作用して、うまく事が運び、契約が取れたりする。まず鷹野が纏う“デキるオーラ”が人を信用させ、実際は意味のない言葉でも、相手の心に深く刺さる何かに変換されて、浸透していくようだ。
本作のもう1人の主人公的存在である鶸田は、努力家で有能だが、何事にも自信がなく、その気弱そうな雰囲気と態度によって、相手を怒らせるため、営業にも尻込みしがち。そんな鶸田が、同期の鷹野とコンビを組んだ営業の仕事は、次々とうまくいくが、鶸田は鷹野が何を考えているか分からないし、正直なぜうまくいくのかも分からない。それは、鷹野本人も同じだが、彼女は自分が何を分かっていないのかも分からないので、契約が取れても、1ミリも成長することがない。
社内では、鶸田だけではなく、上司の鳩山(井浦新)たちも鷹野から謎の影響を受け、最初は持て余されていた鷹野が、段々といなくてはならない存在になっていく。適当なことを言っているのに、なぜか誰とでも会話が成り立つ鷹野の言葉から、自分自身を見つめ直したくなってしまうという、不思議な現象が起きる。実は、鷹野は無能に見えて、特別な能力を持っているのかもしれないと思わずにはいられない。