黒崎煌代の90sシネマクロニクル 第2回『ギルバート・グレイプ』“束縛”の意味を考える

『ギルバート・グレイプ』“束縛”の意味

 では、無意識の束縛は制御が難しいですが、意識的な束縛はしなければいいのでは? とも思いますが、そうではないらしいです。「束縛してほしい」人もいます。束縛に愛を感じる人もいるそうです。いやぁ〜難しい。私にも心当たりがあるようなないような……。「束縛する=不安がある」とするならば、相手を不安にしたいのでしょうね。女性はアブナイ男性に惹かれるとどこかで聞いたことがあります。「惹かれないで! 女性!」と、黒崎は強く思います(笑)。

『ギルバート・グレイプ』写真:Everett Collection/アフロ

 本作では、ベッキー(ジュリエット・ルイス)が外の世界を知る人間として登場します。閉鎖的な世界に入ってくる外部の人ほど、その社会をかき回すものはありません。ギルバートは自分より自由な彼女に惹かれていき、外の世界への憧れを増幅させます。束縛が爆発する瞬間の代表例はやはり浮気や不倫でしょう。この時ギルバートは“地域を浮気”しそうになっていたのではと考えます。

以下、ネタバレあり

『ギルバート・グレイプ』写真:Photofest/アフロ

 この映画で、最も衝撃的なシーンは間違いなくラストの、母を家ごと火葬するシーンでしょう。ギルバートにとって、家族的、友達的、社会的、環境的束縛の象徴である家を燃やすこのシーンは観ていて哀しさと清々しさが感じられます。束縛から解放される瞬間は哀しくもあり清々しいものだと思います。それが見事に映画に詰め込まれていることがこの映画の面白さなのではないかと思います。

 『ギルバート・グレイプ』は色の使い方もいいですよね。ギルバートの橙色の服、茶髪とジーンズの青、田舎の枯れた茶色と空の青と、どこか統一感があります。町の外から来た「バーガー・バーン」の帽子には、対照的な赤が伏せられていて、物語の変化を予感させます。そして映画の最後も炎の赤で締めくくられる。そういった色の使い方が素晴らしいと思います。

  改めて『ギルバート・グレイプ』を観たことがない人には、お勧めしたい作品だと思いました。ジョニー・デップとディカプリオがなぜ今の地位を築けたのかは、ルックスとスター性はありますけど、この若かりし当時からでも伝わってくる表現力。これを観たらそのことが再確認できますし、やっぱりすごいと思えるはずです!

黒崎煌代(写真=池村隆司)

■作品情報
『リアリティ・バイツ』
出演:ウィノナ・ライダー、イーサン・ホーク、ジャニーン・ガラファロー、スティーヴ・ザーン、ベン・スティラー
監督:ベン・スティラー
脚本:ヘレン・チャイルドレス
日本公開日:1994年12月10日
写真:Everett Collection/Album/Photofest/アフロ

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