『おむすび』が正面から描いた阪神・淡路大震災 “冷たいおむすび”が悲しい記憶の象徴に

『おむすび』震災を子ども目線で描くリアル

 一方、結が朧げながら覚えているのは、揺れがおさまったあと、急いで部屋に駆けつけてきた聖人と愛子(麻生久美子)が抱きしめてくれたこと。そしてわけもわからぬまま、家族で瓦礫の中を歩いて避難所になった小学校まで歩いて行ったこと。そこでは誰もが不安そうに身を寄せ合っていて、時折家族が瓦礫の下敷きになった人が必死で助けを求めにやってきた。

 『わろてんか』(2017年度後期)や『らんまん』(2023年度前期)では関東大震災、『あまちゃん』(2013年度前期)や『おかえりモネ』(2021年度前期)では東日本大震災と、これまでも数多くの作品で震災を描いてきた朝ドラ。その中でも本作が稀有だったのは、十人いれば十人感じ方が異なる震災を子供の目線で切り取ったことだろう。記憶が曖昧という点もそうだが、大人たちがみな深刻に避難所で過ごす中、状況がよく理解できていない結は学校の友達と「幼稚園休みかな? 一緒に遊べるね」と笑い合っていた。避難所に似つかわぬ子供たちの呑気な声が逆にリアリティを醸成している。

 だが、そんな結にも思い出すだけで胸がチクリとする記憶がある。それは、三浦雅美(安藤千代子)という避難所におむすびを差し入れてくれた女性に「おばちゃん、これ冷たい。チンして」と無邪気に言ってしまったこと。三浦は電気もガスも止まっていて電子レンジが使えないことを丁寧に説明した上で、「おばちゃんち出た時はおむすびホカホカやってんけどなあ」と被害に遭った街を歩いているうちに冷めてしまったことを涙ながらに明かす。そして「おばちゃんな、生まれも育ちも神戸やねん。大好きな神戸の街があんなんなってんの見たら……」と言葉を詰まらせる三浦。演じる安藤は神戸出身で実際に震災を経験し、現在は語り部としても活動しているという。ゆえにその言葉には熱がこもっており、直接描写はされずとも彼女が歩いてきた道のりさえも感じさせた。

 しかし、最後には「でも、大丈夫。絶対、大丈夫やから」と安心させてくれたこと、冷たいおにぎりの味も、そのおにぎりのおかげで不安そうにしていたみんなが少しだけホッとした笑顔を浮かべた瞬間のことも、結は覚えている。結が「美味しいもん食べたら、悲しいことちょっとは忘れられるけん」と悲しい顔をしている人に食べ物を渡すのは、そこから繋がっているのだろう。2025年度前期には『アンパンマン』の作者・やなせたかしとその妻をモデルにした朝ドラ『あんぱん』が放送されるが、奇しくもお腹のすいた人や困っている人に自分の顔を分け与えるアンパンマンとも共通する精神だ。結も震災の経験から、みんなを元気にするために食べ物を分け与えてきたが、まだ自分の心は癒せていない。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、麻生久美子、北村有起哉、佐野勇斗、緒形直人、キムラ緑子、磯村アメリ、新納慎也、高松咲希ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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