戦争を“知る“ために必見 『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』の余韻をいつまでも

特別な戦争ドラマ『昔はおれと同い年~』

「戦争があったなんて、みんな知ってる。教科書に書いてあるやろ」
「私は戦争の話なんて聞きたくありません。人が死んだ話なんて、怖くて悲しい気分になるし」

 拓人(中須翔真)のクラスメイトたちが口にしたこれらの言葉が、現代を生きる子どもたちの偽らざる心境なのかもしれない。昨今、全国の小学校で平和教育に充てられる時間が減少化の傾向にあると、ニュースや様々なドキュメンタリー番組が伝えている。

 2024年8月15日、終戦の日に放送された『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(NHK総合)が、8月31日に再放送される。本作は、小学館児童出版文化賞を受賞した椰月美智子による同名児童小説を、NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』やNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(※足立紳氏との共同脚本)を手がけた櫻井剛の脚本でドラマ化した。

 小学校6年、11歳の拓人は、友達の忍(石坂大志)と宇太佳(原知輝)とともに神社でスケボーをしていたところ、神社の管理人のおじいさん、田中さん(岸部一徳)と出会う。拓人は田中さんと交流を深めていきながら、戦時中の田中さんの体験を聞く。

 年の差70歳以上の「元少年」と「現役の少年」の心がだんだんと近づいていく様子や、田中さんと拓人の、互いを思う気持ちが、ドラマ本編73分という尺の中で過不足なく、繊細に描かれている。「お年寄りが子どもに講釈を垂れる」という構図には決してせず、お互いがお互いから大事なものをもらって、心のキャッチボールを重ねていく。その姿を、選び抜かれた台詞と映像で見せる。これが本作の品性といえる。

 拓人は、自分たちが住む街にかつて空襲があったことを、田中さんから聞くまで知らなかった。それを高校生の兄に伝えると、兄の世代には「語り部」から戦争体験を聞く授業があったという。拓人には初耳の「語り部」という存在。こんな描写にも、「平和教育の希薄化」に対する作り手の危機感と、だからこそ今、このドラマを通じて伝えたいことが見えてくる。田中さんのように、実際に戦争を体験した世代で健在する方々は、少なくなっている。

 拓人に訊ねられて、田中さんの口からぽつりぽつりと「戦争」が語られる。父と兄は兵隊に取られて戦地で亡くなった。そして終戦直前の空襲で母と妹を喪い、拓人と同じ11歳のときに、田中さんは天涯孤独の身となった。それから70年もの間、この神社の管理小屋で、田中さんはたった独りで暮らしてきたのだ。その事実を知らされたとき、そして田中さんのふくらはぎに残るケロイドの痕を目の当たりにしたときの拓人の表情が、胸に迫る。教科書で読んではいたけれど、どこか遠くの出来事だと思っていた戦争が、今、自分のすぐそばにあることを知り、拓人にとって戦争が「自分ごと」となった瞬間だった。

 それだけ凄絶な体験をして生きてきたのに、否、だからこそ田中さんは、いつでも「ありがとう」と言う。拓人・忍・宇太佳に対して「子どもだから」とみくびらずに、対人間として敬意を払う。自治会の人々に失礼をはたらかれても怒らない。「怒ることないんですか?」と拓人が訊くと、田中さんは「僕は恵まれてるよ」と答えた。拓人は「田中さんの幸せって一体なんなんやろ」と考え込んでしまう。

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