『虎に翼』岡田将生が体現する航一の“不器用な優しさ” 寅子は複雑な恋心に考え悩む
ただ、寅子も航一も、相手を気遣う心はあるが、自分たちが抱いている感情を捉えきれていないうえ、言葉にして伝えることはあまり得意ではないようだ。
顔を見合わせてどこか気まずい空気になる場面には、やきもきさせられる。航一が口にした「ごめんなさい」は、突然の訪問への謝罪だろう。とっさに寅子は、航一が自分に寄り添おうとしてくれたことについて「うれしいんです。来てくださったことも、何も言わずにそばにいてくださったことも」と素直に感謝を伝えた。だが、「でも……」と続けたきり言葉が出なくなる。航一もまた「僕も無意識に弱っているあなたにつけ込もうとしていたのかもしれません。すみません」と謝罪する。
去り際、航一は何か言いたげに立ちすくんでいた。けれど、航一と寅子は「ではまた」「また本庁で」以外に言葉を交わすことはなく、航一は何かを言おうとして言えないまま、頭を下げたように見えた。岡田の面持ちには、寅子を心配する航一の不器用な優しさが滲み出ている。しかし言葉少なな航一の思いがどれほど伝わっているのかは分からない。寅子もまた、航一に対する「胸が苦しくて、息が詰まる」ような感情に気づきながらも、その答えから必死に目をそらすことしかできない。伊藤の佇まいが見せる微細な感情変化に魅せられる。物語序盤の寅子は美佐江への対応で思い悩んでいた。航一が去った後に座り込む姿からは、胸の奥からこみ上げてきた感情について考え悩む様が痛いほど伝わってきた。
寅子と航一の場面は優しくも切なく、観ていて心苦しくもなる。そんな中、久方ぶりに寅子のパッと明るい笑顔を引き出したのが花江(森田望智)の訪問だ。イマジナリーではなく、本物の花江との再会に寅子は大いに喜んだ。花江との時間もまた寅子の心を軽くしていくはずだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、仲野太賀、森田望智、桜井ユキ、田中真弓、羽瀬川なぎ、遠山俊也、竹澤咲子、望月歩、堺小春、三山凌輝
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK