『アンメット』は台詞にはせずに“愛”を描き出した “信じて、続けた”制作陣の姿勢に拍手

『アンメット』“信じて続けた”制作陣の凄さ

「川内先生、わかりますか?」
「わかります」

 目を覚ましたミヤビ(杉咲花)が、三瓶(若葉達也)の問いかけに答えて、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)は物語を閉じた。

 交通事故の後遺症で過去2年間の記憶を失い、新しい記憶も1日しか保たず、寝て起きたら前日の記憶がなくなってしまう記憶障害に苛まれる脳外科医・川内ミヤビの再生を描いた本作。全11回に貫かれていたのは、「信じること」「信じて、続けること」という理念だ。

 「寝て起きたら毎朝記憶が消えている」という、たいていの人なら絶望してしまいそうな状況。それでも「いつかは」と信じ続け、ミヤビは毎朝5時に起き、書き溜めた日記を読む。杉咲花の申し出により彼女の直筆で綴られたという、繰り返し読み込まれた跡のある「ミヤビの記録」は、単なる「小道具」ではなかった。ミヤビが生きた、生きている証そのものだった。

 「信じて、続ける」というテーマを深奥に描き出しているのが、このドラマの「日常」の描写だ。ミヤビが毎日読む日記、ミヤビと三瓶が一緒に歩く通勤路、ミヤビのために毎朝改めて自己紹介をしてくれる病院のスタッフたち。登場人物たちが発する、自然で研ぎ澄まされた台詞。ミヤビの寝覚めのそばかすさえも、『アンメット』の世界に生きる人たちの「日常」を精彩かつ立体的に紡いでいた。

 ミヤビが担当する脳外科の患者たちにとっての「日常」も、彼らの治癒に大きな役割を果たしていた。レナ(中村映里子)にとっての台詞読み(#1)、亮介(島村龍乃介)にとってのドリブル(#2)、高美(小市慢太郎)にとっての鰹だし(#7)、柏木(加藤雅也)にとってのスケッチ(#10)。後遺症により以前の「日常」に戻れない患者にとって、これらは向き合うのが苦しいものかもしれない。でも、希望を捨てずに続けることで、少しでも前進するかもしれない。今日という日が、明日につながるかもしれない。ミヤビは、こうした患者たちに寄り添いながら、同時に彼らから力をもらう。

 患者や同僚たちから「信じて、続ける」ことの大切さを教わりながら、ミヤビは少しずつ強さを身につけていく。そしてそんなミヤビに触発され、同僚たちも変化していく。心に鎧を着ていた看護師長の津幡(吉瀬美智子)は、ミヤビの生き様を見て素直になることの大切さを知る。母への誤診をきっかけに全科専門医レベルを目指す星前(千葉雄大)はミヤビの「諦めない強さ」にふれ、また三瓶の煽りに奮起し、目標に向かって努力し続ける。院内での権力取得のために政略結婚をしようとしていた綾野(岡山天音)と麻衣(生田絵梨花)は、今の気持ちに正直になることをミヤビから教わり、真実の愛に目覚める。

 そして、最初から最後までミヤビの回復を信じて支えた三瓶。ミヤビの記憶障害を治すために、アメリカの大学病院で知識と技術を身につけて帰国し、絶えずミヤビを鼓舞し続けた。ミヤビを脳外科医として復帰させ、いつかミヤビの脳の中の「ノーマンズランド」(医学的に人がメスを入れてはならない領域)の手術をする日に備えて、人知れず毎日縫合の練習をしていた。「強い感情は忘れません」「記憶がなくても強い感情は覚えている」と、繰り返しミヤビに語りかけた。

 信じること。それはすなわち愛と言い換えられるかもしれない。このドラマは、「愛」などという言葉を一言も人物に言わせることなく、しかし、たしかに「愛」を映し出していた。患者の家族が、患者の回復を信じて支えることも愛。ミヤビが泣きながら描いた三瓶の絵も愛。三瓶の行動原理のすべてはミヤビへの愛でできていた。そして、その愛の灯は、実はミヤビから三瓶に渡されていたのだと、最終回に明かされる。

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