立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第50回
映画館の“聖地化”には“情熱と愛”が試される!? 『マッドマックス』『RRR』の例から考える
この時期、他のシネコンで特大ヒットしていたのは『ラブライブ!The School Idol Movie』。伝え聞くとんでもない動員数に、自分の仕事人生を賭けたと言ってもいい『マッドマックス』の数字と比較して絶望していました。愛だけではダメなのか……。
しかしこの『ラブライブ!』を上映できなかったことが、シネマシティの明暗を分けたのです。もし上映できていたなら、間違いなく最大スクリーンは『ラブライブ!』に割り当てられ、『マッドマックス』は早々に小さなスクリーンに移動していたはず。それでもせっかく高性能サブウーファーを購入し、専門家の調整を行ったということで、半ば意固地に最大スクリーンでの上映を続けていました。
1カ月後。『マッドマックス』という作品自体が持つ規格外の魅力が、シリーズを観てきたおじさんたちだけでなく、世紀末ジャンクアートな世界観をカッコいいと思う、ファッション好き、アート好き、アニオタなどの若きファンにじわじわと伝わり始めたのです。
そのとき、すでにIMAXなどの特別な上映方式はほとんど『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』に切り替わっていました。残っていたのは【極上爆音上映】だけでした。
7月も半ばになってから、火がつき始めました。有名クリエイターや芸能人の方なども続々と訪れてくださり、大手ネットメディアなどから取材依頼が入るように。
その頃から、シネマシティと検索すると予測推測候補に「頭おかしい」「遠い」と入るようになり、ピーク時にはGoogleマップで「シタデル」と検索すると、なぜかシネマシティがズームアップされるという怪現象まで発生しました。
その後一度上映は終了するも、日本中の映画ファンにシネマシティの名前を広めてくださった『マッドマックス』ファンの皆様に恩返しするため、稼いだ金額を遙かにこえる6000万円超のさらなる音響機器への投資と、その機器で爆発的に増幅された興奮を味わっていただくため、ソフト発売後にも関わらず半年間のロングラン上映をスタートした話は、また別の機会に。
あれからもう10年近く。その間にいろいろ経験も増えましたが、結果「聖地」は意図しては作れない、と感じています。
もしファンの皆様に認めてもらえれば、その経済効果はすさまじいものになります。例えば、日本全体の興収では『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は約116億円、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は約18億円ですが、シネマシティでは『マッドマックス』のほうが数字が上です。立川というそれほど多いとは言えない人口18万人の市にある映画館が、都心の映画館の数字を超えるようなことすら起こります。
ですが、それを狙って「聖地」を作ろうとしても、賢いファンの方々にはすぐに見破られてします。そして冷ややかな目で見られてしまうでしょう。そこに紛いなき「情熱と愛」があるのが、必要条件です。その作品に対して。映画館というものに対して。
しかしそれがあっても、うまくいくかどうかは運次第。作品の力、その時上映されている他作品、他劇場の興業状況にも依ってしまいます。
浅ましさは捨て、目的はただ「自分と同じものを愛するファンに喜んでいただくこと」にだけ照準を絞り、それこそが、それだけが、いずれ成果を引き寄せると信じて邁進するしかないのでしょう。後先は考えず、まずは闇雲に走り抜ける。
先日公開された、続編で前日譚である『マッドマックス:フュリオサ』が、膨れ上がった期待にも応えてくれる傑作であったことに感謝。すごすぎるよ、ジョージ・ミラー監督。
この作品のために、できることがあるはず。あの時のギターヘッドから吐き出された炎のような情熱は、今も消え去ってはいません。なにかと縛りの多い最初の興業が落ち着いて、もう少し自由が効くようになったら、銀のスプレーで口唇を彩り、口に含んだガソリンをエンジンに吹きかける準備がある。
You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)
■公開情報
『マッドマックス:フュリオサ』
全国公開中
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp