『虎に翼』はとんでもなく面白い朝ドラになる! “朝ドラらしくない”「語り」に注目

『虎に翼』はとんでもなく面白い朝ドラになる

 一方で、朝ドラ要素を強く担っている部分もある。それが寅子の口癖の「はて?」。いわゆる『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」にあたるセリフだ。

 近年の朝ドラでは、『ちむどんどん』の「まさかやー」、『半分、青い。』の「ふぎょぎょ」などがあるが、それらにも勝る回数で「はて?」が登場する。この「はて?」は、寅子が疑問を抱いて何か物申したい時に発するセリフで、演じる伊藤自身にもリンクする思いだという。さらにもう一つ劇中でよく出てくるフレーズが「スンッ」。言いたいことがあっても空気を読んで何も言わない態度を表している。

 つまりは「じぇじぇじぇ」的な朝ドラ要素を担いながらも、その裏には自分に正直に、何事にもまっすぐ向き合う寅子の人物像とそのカウンターにある世間の態度を象徴した言葉にもなっているのだ。

 ほかにも猪爪家の食卓シーンは朝ドラの画を印象付けながら、今作の真ん中にいるのは寅子を演じる伊藤である。気が強く自信家でありながら弱さや葛藤を抱え、それでいてチャーミング。吉田は、伊藤の書き下ろしエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』から得た飾り気がなく、何事も楽しむ力がある伊藤のイメージを寅子の人物像に反映させており、それは万人が思い描くあの伊藤沙莉の演技を思いっきり楽しめるということでもある。

 朝ドラとしては革新的な『虎に翼』は、半年後に振り返った時に「朝ドラらしさ」のような固定観念を覆す、そんな上質なエンターテインメントを届けてくれる予感がしている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
NHK総合にて、2024年春放送
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、上川周作、森田望智、仲野太賀、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、戸塚純貴、岩田剛典、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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