『おっさんずラブ』と『正直不動産』、続編はなぜ成功? 前作からの“変化”を考える

『おっさんずラブ』『正直不動産』の共通点

 『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)と『正直不動産2』(NHK総合)。どちらも多くの視聴者に愛された作品の、数年ぶりの続編ということで、やはり安定して面白い。とはいえ、変わらない魅力に留まることなく、片や「公安」井浦新と別人格の田中圭、片や山下智久の「風」に対するディーン・フジオカのタップダンスと、思わぬ変化球で新風を吹き込んでいる。そして何より、時代を反映した2作品の変化が興味深い。彼ら彼女たちが戸惑いつつ対峙する「いま」は、私たち視聴者に何を伝えるのか。

『おっさんずラブ-リターンズ-』の「人類愛」宣言

『おっさんずラブ』第6話
『おっさんずラブ-リターンズ-』©テレビ朝日

 『おっさんずラブ』は、元々2016年の深夜の単発ドラマ(田中圭、吉田鋼太郎、落合モトキ出演)から始まり、2018年に連続ドラマ化(田中圭、吉田鋼太郎、林遣都出演)、2019年の映画化、同年にパラレルワールドドラマ『おっさんずラブ -in the sky-』(田中圭、吉田鋼太郎、千葉雄大、戸次重幸出演)の放送と、気づけば長い歴史を伴いつつある。本作は、その中の2018年版・映画版の続編である。

 多様性という言葉も、男性同士の恋愛を描いたテレビドラマ自体も珍しかった放送当初と違い、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)や『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)といった数々の優れたドラマ作品が生まれた中で、プロデューサー・貴島彩理、脚本家・徳尾浩司ら制作陣が描いたのは「新時代のホームドラマ」としての『おっさんずラブ』だった。

 本作には2つの軸がある。1つは、これまで描いてきた春田(田中圭)と牧(林遣都)の恋愛模様のその先であるところの結婚生活と、「家族になるとは何か」を描くということ。彼らが向き合う、家事の分担問題、嫁姑問題、介護問題、マリッジブルーなどの葛藤は、他の登場人物たちがそれぞれに自分の経験を重ねることからわかるように、多くの視聴者が自分自身に置き換えて考えずにはいられない事柄だろう。また、本来ならパートナーの一方に負担と葛藤が偏ってしまいがちな事象を見事に分担しているところも興味深い。

『おっさんずラブ』第6話
『おっさんずラブ-リターンズ-』©テレビ朝日

 もう1つは、黒澤(吉田鋼太郎)、武川(眞島秀和)たちが、行き着く先の見つからない「人を好きになる」気持ちとどう向き合うかということ。特に、『おっさんずラブ』シリーズ全体を通して春田を愛し続けてきた黒澤の、本作における立ち位置は、「姑」の心境に、推し活のファン目線の心境をプラスした感じだが、第2話において、それを蝶子(大塚寧々)に言い当てられたことよって、その名状しがたい感情、並びに「今のこの俺のポジション」に名前が付いた時の喜びは、笑いを越えて、どこか切実なものがあった。

 総じて本作は、牧の父・芳郎(春海四方)の「お尻が拭けない」問題、武川の「オムツパートナー」発言を巡る第4話における春田の「みんなで家族になってさ、仲良くオムツパートナーになってさ、オムツ同盟結べばいいじゃん」という、一見馬鹿馬鹿しいようで、でも本当はすごく大切な、すべての人の不安を包み込む「人類愛」宣言とでも言うべき言葉に尽きるのかもしれない。

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