荻野洋一の「2023年 年間ベスト映画TOP10」 1位から4位までを女性監督が占める

荻野洋一の「2023年映画ベスト10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2023年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第8回の選者は、映画評論家の荻野洋一。(編集部)

1. 『ショーイング・アップ』
2. 『バービー』
3. 『帰れない山』
4. 『ファースト・カウ』
5. 『ほかげ』
6. 『遺灰は語る』
7. 『トリとロキタ』
8. 『PERFECT DAYS』
9. 『aftersun/アフターサン』
10. 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

『ファースト・カウ』©︎2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 1位の『ショーイング・アップ』(2022年)と4位の『ファースト・カウ』(2019年)。オレゴン州を拠点として活動する女性監督ケリー・ライカートの最近作2本が、日本ではたまたま同時期の公開となった。母国アメリカではすでに非ハリウッドの別格的存在としてきわめて高い評価を確立しているが、日本での受容はこれからというところ。彼女の映画の特徴は、もっぱら社会の片隅の人たちを被写体とし、最小限の会話、最小限のアクションで、人と人のあいだに生起する情感がじわりとにじみ出て、運命の曲がり角、幸福な部屋、すれちがいの小路が、観る人の心臓にぐさりと突き刺さるというものである。しかしその独特の涼しげな作風に出会ったとき、「取り残された」感じを抱く観客の方もいらっしゃるかもしれない。そのへんはぜひお好みでどうぞ。

『バービー』©2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 2位『バービー』のグレタ・ガーウィグ、3位『帰れない山』のシャルロッテ・ファンデルメールシュも含め、これで1、2、3、4位までを女性監督作品が占めることとなった(『帰れない山』は夫との共同監督作)けれども、これは偶然であって偶然ではない。選者の私としては意図的な選考ではないにせよ、女性作家たちに少しずつ機会が与えられ始めた現実が多少なりとも反映されたということだ。特にグレタ・ガーウィグは、秀逸な前作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)からさらに表現の幅を広げ、フェミニズム的主題を極彩色のブロックバスタームービーにまで拡張させた手腕はみごとなものだった。

『ほかげ』©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

 5位の塚本晋也監督『ほかげ』と8位ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』の2本が日本映画。『ほかげ』は戦後まもなくの焼け跡で、日本の闇を1軒のちっぽけな定食屋に凝縮させた。おそらく戦前はこの定食屋のシェフだっただろう夫はすでに戦死しており、空襲で子にも死なれたヒロイン(趣里)が、定食屋を私娼窟に切り替えてなんとか食いつないでいる。塚本晋也監督の戦争遂行決定者たちに対する憤り、そして兵士にリンチを加え、死に追いやった上官の蛮行に対する怒りが、ミニマルな画面の中に激烈に叩きつけられる。また、趣里という役者の凄さを『生きてるだけで、愛。』(2018年)以来、改めて見せつけられた。

『遺灰は語る』©Umberto Montiroli

 6位『遺灰は語る』はイタリアの名匠、タヴィアーニ兄弟の兄ヴィットリオが2018年に死去し、残された弟パオロ・タヴィアーニが単独で完成させた喜劇。イタリアの文豪ピランデッロの埋葬方法をめぐっての虚実交えた混乱が、ユーモアとファシズムに対する侮蔑の念とともに綴られ、最後にはピランデッロ原作のまがまがしい短編も追加される。タヴィアーニ、さらに巨匠の風格が増してきたダルデンヌ兄弟の7位『トリとロキタ』もそうだが、このようないわゆる巨匠の名篇といったありようが、現代ではもはや高山植物のように貴重なものに思えてくる。9位『aftersun/アフターサン』はスコットランドの女性監督シャーロット・ウェルズのデビュー作。透徹しながらも癒えない悲しみに沈澱する。

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