『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ヒットの陰に“推し活”パワーあり? 右肩上がりの興行を分析
「推し活」でSNSを駆使するのは女性
口コミによるヒット作は、前提として内容の濃密さが必要だが、それだけでは足りない。本作のヒットを支えているのが女性層であることは、おそらく重要な要素であると思われる。
アニメの女性ファンの行動に詳しいジャーナリストの渡辺由美子氏は、IMARTのシンポジウムで「女性ファンは布教活動を盛んに行い、ファンを増やす」行動を取ることが多いと語る(※1)
この行動が可視化されたのは社会のSNS化が大きいわけだが、実際に今も「推し」の情報収集と情報発信でアクティブにSNSを活用しているのは、(男女ともに活発なのだが)どちらかという女性であるというデータもある。
トライバルメディアハウスの「推し活」調査のデータによると、アニメのカテゴリではX(旧Twitter)が「推し」の情報収集ツールとして一番大く使われており、男女比は「Xで検索する(男性41.2%、女性55.0%)」「Xで特定の有名人やブランドの投稿を閲覧する(男性26.1%、女性36.2%)」となっており、とりわけ20代以下の女性は58.7%と高い数値を示している。この調査全体で男性よりも女性への言及が多く、このページを全文検索すると男性は8か所だが女性は22か所ヒットする。それだけ今「推し」に対して熱心なのは女性の方だということだろう。情報収集だけでなく、アニメの情報発信でも、X・LINE・Instagramで女性の方が男性よりも軒並み高い数字が示されている。(※2)
本作の口コミによる右肩上がりのヒットの要因は、女性層に刺さる内容だったこととは、無関係ではないだろう。今は、男性よりも女性の方が口コミのパワーを発揮しやすい状況にあるのかもしれない。
ちなみに、『ゲゲゲの鬼太郎』という作品には女性ファンが少なからず存在しており、昔から男女ともに親しまれてきた作品ではある。2018年『ゲゲゲの鬼太郎』第6期放送中には、女性向けのコラボ商品やランジェリーなども発売されていたりする(※3)
女性のホラー映画ファンが増えている?
そして、本作がホラー映画として完成度が高かったことも女性ファンを惹きつけた要因かもしれない。
従来、ホラー映画ファンは男性が多かったイメージで、女性のホラー映画ファンは可視化されにくかったが、実際には一定数いた。近年は若年層の女性にホラーが人気だというアンケート調査もある(※4)
そうした傾向の反映なのか、今年公開された日本のホラー映画は、女性アイドルだけではなく男性アイドルが襲われる作品が目立つ。なにわ男子の西畑大吾主演の『忌怪島/きかいじま』や「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の7人が本人役で主演した『ミンナのウタ』、WEST.(旧ジャニーズWEST)の重岡大毅主演の『禁じられた遊び』など、これらの作品は女性ファンが見に来ることを期待して企画されているのだろう。ホラー映画といえば、悲鳴を挙げる女性役を「絶叫クイーン」と呼んだが、これらの作品に出演する男性アイドルは「絶叫プリンス」とでも言うべきだろうか。
ホラー映画というジャンルは近年、男性ファン中心ではなくなってきているのかもしれない。『鬼太郎誕生』がたくさんの女性ファンを惹きつけたのは、バディものの要素だけではなく、PG13指定となるほど残酷表現を含んだホラー描写に躊躇しなかったことも大きいのかもしれない。
参照
※1. https://imart.tokyo/ss-2023-11-26-1700
※2. https://www.tribalmedia.co.jp/note/research-220906/
※3. https://p-bandai.jp/item/item-1000133473/
※4. https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01944/
■公開情報
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
全国公開中
出演:沢城みゆき、野沢雅子、関俊彦、木内秀信、種﨑敦美、小林由美子、白鳥哲、飛田展男、中井和哉、沢海陽子、山路和弘、皆口裕子、釘宮理恵、石田彰、古川登志夫、庄司宇芽香、松風雅也
監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン:谷田部透湖
制作:東映アニメーション
配給:東映
©︎映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
公式サイト:https://kitaro-tanjo.com/
公式X(旧Twitter):@kitaroanime50th