『大奥』は後世に語り継がれるドラマに 受け継がれてきた思いが最後に起こした奇跡

『大奥』福士蒼汰が歴史の終焉を見届ける

「悲しみばかりであったか? そなたにとって、大奥は」
「いえ。この上ない喜びも、出口の見えぬ悲しみも」

 謎の奇病で男子の数が減少の一途をたどる中、女将軍として擁立された家光(堀田真由)と側室の有功(福士蒼汰)が最初に御鈴廊下を歩いてから約200年。NHKドラマ10『大奥』最終話では、胤篤(福士蒼汰/二役)と瀧山(古川雄大)が大奥の終焉を見届ける。2人の前には、有功から目に見えぬ形で受け継がれてきた祈りの結晶とも言える流水紋の裃が並んでいた。

 大奥は、男も女も、徳川の血を継いでいくためだけに集められた鳥籠だった。けれど、どの時代にも流水のごとくその悲しみを洗い流し、満たされぬ心の渇きを潤してきた者たちがいる。この大奥で「2羽の傷つき凍えた雛が互いに身を寄せ合うように」家光と恋をした有功は子種を持たなかった。愛する人が他の男に抱かれる身を引き裂かれそうな苦しみの中、有功が流した涙は四季折々の行事や学問に変わり、他の者の心を慰めた。「生きるとは子孫を残し、家の血を繋いでいくことだけではない」と、望まぬ子作りに心を蝕まれる綱吉(仲里依紗)に強く訴えたのは右衛門佐(山本耕史)だ。彼の言葉を後の世に体現したのが吉宗(冨永愛)。彼女は家臣たちに支えられながら、あらゆる脅威から人々を救うべく死の間際まで奔走した。

 その後、吉宗の意志を受け継いだ田沼意次(松下奈緒)の命により、青沼(村雨辰剛)と平賀源内(鈴木杏)は赤面疱瘡の解明に挑んだ。子を産み育てる場所だった大奥が医学の研究所の役割を果たすことになろうとは、誰が予想しただろう。青沼と源内は道半ばであの世へと旅立つが、仲間たちの手によって家斉(中村蒼)の時代に赤面疱瘡の撲滅は果たされた。男が権力を取り戻す中で家督を継いだのは、阿部正弘(瀧内公美)である。性別や身分の差にかかわらず、国民の英知を結集し、西洋列強に対抗していく新たな仕組みを構想していた正弘。彼女に見出された一人である瀧山は、最後の大奥総取締として家定(愛希れいか)に仕えた。

 その家定が正弘の理想を突き詰めていけば、「徳川の血を引く者だけが舵をとるのはおかしい」という理屈に行き着くと気づいてから、時代は一気に動き出したように思う。気づけば、大奥は血の繋がりのない他人同士が身を寄せ合う住処となっていたが、終焉の時はもうすぐ側まで来ていた。家茂(志田彩良)の死後、将軍職を引き継いだ慶喜(大東駿介)は政権を朝廷に返上。だが、自分たちの処遇に不満を抱く旧幕府軍は新政府軍との戦いに舵を切る。そんな中、立ち上がったのは胤篤と和宮(岸井ゆきの)だ。2人は家定と家茂が愛した江戸の町を守りたいという一心のみで、江戸城無血開城のために西郷隆盛(原田泰造)との交渉の場につく。

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