『きのう何食べた?』が提示した“他人でも身内”の考え ケンジの言葉選びに詰まった愛

『きのう何食べた?』が提示した他人でも身内

 もし、ケンジが亡くなってしまったら、そして自分たち家族がケンジの大切な人であるシロさんと顔を合わせたことがなかったとしたら、シロさんは「ただの友人の一人」としてしかケンジを見送ることができないんじゃないのか。峰子はそんなことを考えた。

「筧さんは、ケンジのことはもうご自分の身内同然と思っていてくださるんでしょう?」
「だからこうやって家族全員で顔を合わせておけば、何かあった時、筧さんも私たちと一緒にケンジを見送れると思ったんです」

 峰子の言葉に、シロさんの胸は一杯になったことだろう。けれど、社会的に見た自分の立場が頭をよぎってしまう。気を遣わせまいとするような笑顔で、「でも、私の立場はご家族とは……」と返すシロさんの素振りは、どこか苦しげで、切ない。そんなシロさんに、峰子は穏やかながらもはっきりとした口調で伝えた。

「他人でも、身内ってことはあると思うのよ」

 大事な息子の大切な人を思う峰子のまっすぐであたたかな人柄が伝わってくる。峰子の言葉を噛み締めるようにシロさんは涙ぐんでいた。

 知らなければ他人になってしまうと考えた峰子の心遣いも心に染みるが、シロさんに寄り添うケンジの言葉も身にしみるものだった。ケンジの家族を見送りながら、ケンジは「今度は割り勘にしようって」「またちょこちょこみんなでご飯食べようねってことだよね」と言う。峰子、政江、智恵子の背を見つめていたシロさんは「そこに、俺もいるのかな」と感慨深そうに呟く。表情こそ微笑んでいたものの、どこか不安げにも聞こえたのは、シロさんの心の中にある「そこにいたい」という本心と社会的に見た立場への葛藤がうかがえるからだろう。そんなシロさんの複雑な心境を、ケンジは誰よりも理解している。

「シロさん、また素敵なお店選んでね」

 ケンジの言葉選びにグッとくる。ケンジの返答は「うん」でも「いるよ」でもない。ケンジにとって、そしてケンジの家族にとって、これから家族の場にシロさんがいることはごく当たり前のことになる。シロさんがそこにいることを肯定する、ごく自然な言葉だった。

■放送情報
ドラマ24『きのう何食べた? season2』
テレビ東京系にて、毎週金曜深24:12~放送
Lemino、U-NEXTにて、各話放送終了後から第1話〜最新話見放題配信
出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、田中美佐子、田山涼成、梶芽衣子
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、松本佳奈、平田大輔
音楽:福島節、澤田かおり
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:阿部真士(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
企画監修:神田祐介
制作:テレビ東京、avex pictures
制作協力:オフィス・シロウズ
製作著作:「きのう何食べた? season2」製作委員会
©︎「きのう何食べた? season2」製作委員会 ©︎よしながふみ/講談社
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta2/
公式X(旧Twitter):@tx_nanitabe
公式Instagram:@movie_nanitabe

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