『ブギウギ』スズ子はなぜ東京行きを決断したのか “3人の母”から受け取った家族のあり方

『ブギウギ』スズ子と“3人の母”

 出生の秘密を知ってしまった福来スズ子(趣里)に追い打ちをかけるような衝撃的な災厄が降りかかる。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第5週「ほんまの家族や」では、大好きで尊敬していた先輩・大和礼子(蒼井優)の突然の死が。これには驚いた。が、大阪編を締めるにはふさわしい大きな出来事であった。

 朝ドラでは近年、登場人物がいつ死ぬかの興味で物語を引っ張る、いささか不謹慎な展開がデフォルトになっていた。それが物語というものではあることは朝ドラに限ったことでないが。そういうとき、主人公の両親や夫や妻がその対象になるのだが、大和の場合、思いがけな過ぎて、ものすごく驚いた。

 第5週の前半はスズ子が故郷で実母キヌ(中越典子)に会い、アイデンティティーの崩壊を体験し、3年経過しても、育ての母・ツヤ(水川あさみ)へのわだかまりが解けずにいたかと思った矢先の、大和の死。制作統括の福岡利武チーフ・プロデューサーによると、それがリアルということなのだろう。

朝ドラ『ブギウギ』“異例の畳み掛け”展開の理由をCPに聞く 新納慎也の起用意図も

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』が現在放送中。“ブギの女王”と呼ばれる笠置シヅ子をモデルに、大阪の銭湯の看板娘・花田鈴子=福来ス…

 福岡へのインタビューによると、足立紳による脚本は「次から次へと問題が解決しないまま、次の出来事が起こっていくストーリー」で、それこそリアルであり、「実際の人生も、問題が起こるときにはどんどん起きますし、解決なんてしないまま生きていくもの」と考えたうえでの展開なのだという。おっしゃるとおり。この流れていく感じが足立脚本の魅力のひとつである。『ブギウギ』も、15分×週5日のフォーマットにハメていく機械的な感じがなく、ナチュラルだ。

 例えば、梅丸少女歌劇団のきちんとしたルールのような、整然と片付いた部屋のような構成の物語は機能的で心地よいこともまちがいはない。でもそれに慣らされてしまうと送り手も受け手も馴れ合いみたいになってしまう。

『ブギウギ』左から、西野キヌ(中越典子)、福来スズ子(趣里)。 キヌの家・表にて。キヌからある物を渡されるスズ子。

 第4週「ワテ、香川に行くで」で、前半労働争議を引っ張って「香川に行くで」のサブタイトルと合ってないと感じさせながら、後半、ようやく香川に行く構成も、第5週、香川でのあれこれのあと大和が亡くなるという紆余曲折も、はじめて乗った絶叫マシーンのようでいつどこで波が来るかわからない快感をもたらす。自由に泳いでいる感じにはまるで流れていくフィルムのような趣がある。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」(『方丈記』)、鴨長明の域である。

 第5週「ほんまの家族や」は、一見バラバラのようで、スズ子の出世の秘密の件と、大和礼子との別れが、“母”の想いという点で繋がっている。事情で実子を育てることが困難だったキヌ、見かねて代わりに育てることにしたツヤ、自分の命と引き換えに子供を産んだ礼子。3人は“母”とひとくくりにできない、それぞれの想いを持っている。

 キヌは身分違いの恋をしてたったひとりで子供を生むことになり、ツヤに託したまま、結婚しふたりの子供を産み育て、いまはそれなりに安定した生活を送っている。が、預けたままの子供のことも忘れられずにいた。いつか渡したいと時計をずっと持っていたところに、切り離せない想いが宿る。父が違うスズ子を引き取るのもきっと難しかったであろうからやるせない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる