『BAD LANDS バッド・ランズ』原田眞人の脚色は大正解だ “特濃”なキャラの魅力を解説

 そして、山田涼介。

 最高だ。同じ原田監督作『燃えよ剣』における沖田総司役も素晴らしかったが、今作での彼は、それを遥かにしのぐ。

 行動にも言動にも育ちの悪さ由来のバカっぷりとガラの悪さを隠せないが、お姉ちゃんのことが大好きである。まともな教育を受けていないため漢字は書けないが、暗算は異常に速く、きっと地頭はいい。そして、かわいく天真爛漫にも、あるいはサイコパスにも、どちらにも見えるボーダーラインギリギリの笑顔。

 『KAMIKAZE TAXI』における高橋和也、『ヘルドッグス』における坂口健太郎ら、従来の原田眞人作品における「クズだったりサイコパスだったりするけど、どうにもほっとけない弟キャラ」の系譜を見事に引き継いでいる。彼自身が演じた、『燃えよ剣』における沖田総司もその系譜だ。原田監督自身がパンフレットで言及しているが、ジョーのイメージは「現代に転生した沖田総司」なのである。

 裸になった際の、均整の取れた無駄のない筋肉の付き方も良い。腰が重く、タックルが速く、組み合ったら強そうな体型だ。これはおそらく、本作にも「アロハの男」として友情出演した、“あの人”の影響なのではないか。

 このジョーが起こす短絡的な行動のせいで物語は大きく動き、同じく彼が起こした短絡的な行動は、結果として愛する姉を救うこととなる。よく考えたら、主人公である姉はあまり自分からは行動せず、弟に振り回されてばかりだ。

 2人の主人公以外のキャラも、みんな特濃で素晴らしい。

 最期まで、クズなのか、実はいい人なのか、つかみづらかった生瀬勝久。

 昔はめちゃくちゃ悪かったであろうに、年を取ると一人称が「僕」になるさまがリアルな(例:安部譲二)、宇崎竜童。

 そして、関西の劇団「南河内万歳一座」のメンバーが活躍しているのも、涙ぐむほど嬉しい。鴨鈴女(バー『BAD LANDS』店主シワサラ)、福重友(ふれあい荘住人の元?ボクサー)、内藤裕敬(カモ客のひとり)ら、筆者が20年以上前に大阪の小さな小屋で観た面々が、いい役をあてがわれていることが感無量だった。

 大阪のディープゾーンをリアルに描き、人もたくさん死に、出てくるのもクズばかりなのに、ラストシーンのアイデアと爽快さと美しさは、ただごとではない。

 また一つ、一晩語り明かせる映画が生まれてしまった。その際の酒は、やっぱりスピリタスだろう。

■公開情報
『BAD LANDS バッド・ランズ』
全国公開中
出演:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、吉原光夫、大場泰正、淵上泰史、縄田カノン、前田航基、鴨鈴女、山村憲之介、田原靖子、山田蟲男、伊藤公一、福重友、齋賀正和、杉林健生、永島知洋、サリngROCK、天童よしみ、江口のりこ、宇崎竜童
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
原作:黒川博行『勁草』(徳間文庫刊) 
製作:村松秀信、ウィリアム・アイアトン、勝股英夫、藤島ジュリーK.
音楽:土屋玲子
配給:東映/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2023年/143分/カラー/シネスコ/5.1ch
©2023「BAD LANDS」製作委員会
公式サイト:https://bad-lands-movie.jp/
公式X(旧Twitter):@bad_lands_movie
公式Instagram:@bad_lands_movie

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