『BAD LANDS バッド・ランズ』原田眞人の脚色は大正解だ “特濃”なキャラの魅力を解説

『BAD LANDS』特濃なキャラの魅力

 9月22日、原田眞人監督の最新作『BAD LANDS バッド・ランズ』が公開された。

 1995年公開の『KAMIKAZE TAXI』に心をぶん殴られてから、原田眞人監督は筆者の中で特別な存在だ。この作品の話だけで、一晩酒が飲める。『ヘルドッグス』(2022年)の話までし出したら、二晩徹夜だ。

 それならば、当然今作『BAD LANDS バッド・ランズ』も楽しみで仕方がなかったと思われるだろう。だが実は、今作に関しては不安要素の方が大きかったのだ。

 今作は、黒川博行によるクライムサスペンス『勁草』(徳間書店)を原作としている。原作の主人公は、特殊詐欺グループの下っ端青年2人組である。しかもこの2人の間に一切の友情はなく、最後まで憎しみ合ったまま終わる。非常にシビアで殺伐とした物語である。

 だが今回の映画化に当たり、原田監督は主人公2人組を姉弟にしてしまった。

 基本的に、映像化する際に原作の重要人物の性別を変えてしまうことには反対だ。

 その場合、無駄に恋愛要素などをねじ込んできて、原作を台無しにしてしまうパターンが多いからだ。痒くなって観ていられなくなる。

 なぜか緊張しながら観た結果……1ミリも痒くなかった。いや、もはや痒いとか痒くないとかはどうでもいい。今年ナンバーワンの映画を観てしまったかもしれない。

 まず、主人公2人組を姉弟にしたことについて。

 これは大正解だった。原作小説も文句なしに面白いのだが、2人の仲が悪過ぎて、そのまま映像化したら観るのが辛かったと思われる。普通のエンタメ小説なら、“最初は仲の悪かった2人に徐々に友情らしきものが芽生え……”という展開にするだろう。だがこの2人、殺意を抱くレベルで仲が悪いまま、物語は終わる。あまりにも殺伐とし過ぎていて、なかなかに辛い。

 これを姉弟という設定に変えた原田眞人の判断は、さすがである。姉弟であるからして、当然深い絆で結ばれている。2人があまりにもかわいらしいので、「凶暴でギスギスして殺伐としたクズ」の話から、「凶暴だが可愛くて仲のいいクズ」の話になった。

 そして、原作になかった恋愛要素も、あるにはある。だが非常にいびつな恋愛表現のため、痒くなるどころか、寒くなる。無理矢理付け足したような恋愛要素ではないため、物語の邪魔をしない。いやそれどころかこの恋愛要素が、主人公・ネリ(安藤サクラ)の特殊詐欺グループへの加入の遠因となり、その弟・ジョー(山田涼介)の命運まで決めてしまうのだ。

 そして、その姉弟を安藤サクラと山田涼介にしたことについて。

 2回観た上で断言するが、ネリもジョーも、もはやこの2人以外には考えられない。この2人のおかげで、あれだけ陰惨で殺伐とした原作が、こんなにも面白く美しく悲しくもスカッとした超一級の「エンタメ」に仕上がってしまった。

 まず安藤サクラ。

 彼女の関西弁の使い分けが素晴らしい。育ちの悪い関西の女の子っぽい喋り。キレた時の、瞬発力はありながらもやや粘着質な喋り。かと思えば、優しいオカンのような喋り。

 実は観る前にもっとも不安だったのは、東京出身の安藤サクラの関西弁である。筆者自身が生粋の関西人であるため、不自然な関西弁を聞くと、一瞬で冷めてしまうのだ。

 安藤サクラの関西弁は、ネイティブのそれだった。一瞬も冷めさせてくれなかった。どのような感情表現でもボロが出ず、かと言ってワザとらしくもなく、知らずに観たら「この方は関西出身の役者さんなのね」と思ってしまうだろう。

◤本予告◢ 9/29(金)公開 映画『BAD LANDS バッド・ランズ』

 そして彼女は、「育ちの悪い関西人」特有の、ケンカの強さもきっちり身につけている。怪しい半グレを橋の欄干に押しつける際の動き。殺気を放たず自然体で歩み寄り、射程距離に入ったら一気に押し込み、鼻先にナイフを突きつける。体格に勝る男性も、重心を浮かされているため、身動きが取れない。

 あるいは、掴みかかってきたチンピラの指を、ナイフで切り飛ばす。胴体のように「的が大きく動きの少ない部分」を突き刺すなら、比較的容易だ。だが、「的が小さく動きの大きい部分」を的確に攻撃するには、相当の練度を必要とする。

 彼女がいかにハードな半生を送ってきたのか、うかがい知ることができる。

 かと思えば、ふとした時に見せる笑顔が本当に魅力的で、目が離せなくなる。

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