『らんまん』神木隆之介の“唯一無二性” コミカルとシリアスを表現した多面的な万太郎像

神木隆之介『らんまん』で見せた唯一無二性

 半年にわたって放送された朝ドラ『らんまん』(NHK総合)の主人公・槙野万太郎を演じきったのはご存知のとおり神木隆之介だが、この役を演じられた俳優がほかにいるだろうか?

 このタイミングでのこの問いかけは無粋というものだろう。いや、問いたいのではない。「万太郎の役は神木隆之介しかあり得なかった」と、いま改めて断言したいのだ。

 いまさら説明は不要かと思うが念のため記しておくと、神木が本作で演じた槙野万太郎は後世にもその名が知られる世界的な植物学者。幼い頃は体が弱く周囲の人々を心配させたものだが、植物に興味を抱き野山を駆け回るうちに丈夫な心と体を得た。知力に関しては常人のレベルを凌駕するもので、小学校を中退していながら東京大学の植物学教室への出入りを許されるほど。彼にとっては植物がすべてで、彼の世界は植物で成り立っているのだ。

 当然ながら幼少期の万太郎は神木ではなく子役が務めたわけだが、彼らが紡いだ万太郎の生涯は一貫性が感じられるものだった。つまり、その成長過程を演じた森優理斗、小林優仁、そして神木隆之介の間には槙野万太郎の“命のバトン”がたしかに存在し、2人の子役から渡ってきたバトンを受け取った神木は、「あの小さな万太郎が成長したらこのようになるに違いない」と思える万太郎像を提示したといえると思う。

 撮影の順番がどうだったのかは分からない。けれどもここにズレがあっては人物像もブレてしまう。幼い頃から万太郎が持っていた好奇心、野山で培われた活動力、これらを神木は自身のターンが来た際、最大限に出力してみせた。草花を見つければ声のトーンが通常よりも上がり、身体も身軽になる。それはいつまでも少年の心を忘れない、“らんまん”という言葉がぴったりな万太郎像だっただろう。そしてそのキャラクターは老年期の最後の最後まで貫かれた。

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