『らんまん』が描いた関東大震災の恐ろしさ 万太郎が瓦礫の中から救い出す“自分自身”
『らんまん』(NHK総合)第123話で、万太郎(神木隆之介)が植物採集を終え、長屋へと戻ってくる。近所の子供たちは万太郎を「草のおじちゃん」と呼ぶ。ほほえましい光景だが、オープニングを終えた後に映し出された日付に覚悟した人は少なくないはずだ。大正12年(1923年)9月1日、関東大震災が発生する。
地震が発生するまでは槙野家の何気ない日常が描かれていた。万太郎は孫の虎太郎(森優理斗)に植物を標本にする意義を伝える。植物を根から丁寧に採集し、手早く乾燥させて保管すれば、時期や場所を問わず観察することができる。万太郎が虎太郎に伝えた「標本は、世界中で役に立つことができる」という言葉は、万太郎がこれまで培ってきた経験の重みもあって、スッと心に響く。「おじいちゃん、なかなか偉いね」と虎太郎は無邪気に笑った。
千歳(遠藤さくら)と寿恵子(浜辺美波)が昼食の準備をし、万太郎は自室で感慨深そうに原稿を見つめていたその時、地鳴りが聞こえ、地面が大きく揺れた。虎太郎を必死に守る千歳の姿を通じて、揺れの凄まじさがよりいっそう強く感じられる。原稿の山から這い出た万太郎は外へ出て、寿恵子を庇いながら揺れが収まるのを待った。
顔をあげた万太郎の目に飛び込んできたのは、見るも無惨な光景だった。万太郎は倒壊した十徳長屋を茫然と見つめていたが、うわごとのように「標本……」と口にすると、ゆっくり立ち上がる。
「ひ……標本……。標本、す……救わんと」
千歳や寿恵子が止めるのも聞かず、万太郎は標本や原稿が取り残された部屋へと進んでいく。万太郎の行動は、地震発生時において決して正しいものではない。だが、決死の覚悟で標本を救い出そうとする万太郎の姿、そして、危険な状況に身を置きながらも「寿恵ちゃん、逃げえ、早う!」「火事じゃ……。寿恵ちゃん、逃げえ!」と寿恵子に逃げるよう促す必死な声色から、万太郎にとって標本がどれだけ大切なものかが改めて伝わってきた。