実写版『ONE PIECE』吹替版はTVアニメと異なる演技に? “洋画”的になったルフィやゾロ
8月31日から配信開始となるNetflixオリジナル実写ドラマシリーズ『ONE PIECE』の日本語吹替版予告が公開された。アニメシリーズでおなじみの田中真弓や中井和哉や岡村明美、山口勝平、平田広明といった「麦わらの一味」を演じる声優たちが、キャラクターそのままの声を洋画のような演技で聞かせてくれて、生身の役者が演じている実写ドラマにスッと気持ちを入らせてくれる。
「富、名声、力。この世のすべてをそこに置いてきた。海に出て、俺の財宝を探し出せ」
TVアニメの『ONE PIECE』をずっと観続けてきた人ならおなじみの、ゴールド・ロジャーによる大海賊時代の到来を告げる言葉が日本語で浴びせられる。豪快さを感じさせる声で語るのは津嘉山正種。放送開始から長くロジャーを演じた大塚周夫が2015年に亡くなった後、ロジャー役を引き継いだ大ベテランの役者だ。だみ声で威圧するような大塚とはまた別のロジャー像を作り上げた津嘉山の声が、予告編を見ている人を一気に大海賊時代へと引きずり込む。
そしてモンキー・D・ルフィが登場する。「どうする? 仲間にならねえか」と海鳥に向かって呼びかける声は確かに、アニメシリーズでルフィを演じている田中真弓だが、どこまでも無邪気なアニメのルフィとは少しだけ違った、落ち着きのようなものが感じられる。それは、続いて登場するナミにも言える。演じているのはもちろん、アニメシリーズと同じ岡村明美だが、ドラマでナミを演じているエミリー・ラッドと、しっかり重なって聞こえてくる。
同じ吹き替えでも、アニメと外国の映画やドラマの吹き替えは、違う演じ方が求められるという。誇張されたアニメのキャラクターに合わせる声は、負けないような誇張した演技が必要だが、役者が演じている映画やドラマの吹き替えは、元の声や、演じている時の表情を読み取って、その演技に沿った声を出さなければ浮いてしまう。実写ドラマのルフィやナミも、役者たちの演技に合わせた声を、それぞれのキャラクターと分かる声質で演じているところがある。
ロロノア・ゾロ役の中井和哉も、サンジ役の平田広明もそうした演じ分けをきっちりと聞かせてくれる。とりわけゾロの場合は、ドラマで演じているのが新田真剣佑という日本でも知られた若手の俳優で、その顔からドスのきいたゾロの声が聞こえてくることに、違和感が漂うのでは、といった心配もあった。けれども、中井は落ち着いたトーンでゾロを演じて、真剣佑の表情に重ねてみせた。ケンカ相手のサンジとの絡みでも、感情がぶつかりあうような大げさな演技を、予告編の段階では見せていない。
受けるサンジ役の平田も、スーツ姿で痩身のダズ・スカイラーがサンジを演じているような声を聞かせてくれる。ジョニー・デップやジュード・ロウといった、ハリウッドきってのイケメン俳優たちにマッチした声を聞かせてきた平田が、サンジでありながら実写ドラマの役者といったラインをしっかりと出している。
中にはバギー役の千葉繁のように、千葉繁であることを求められる声優もいて、アニメシリーズであろうと実写ドラマであろうと変わらないハイテンションさを聞かせてくれる。バギーというキャラクター自体がいつも演技しているような道化師で、顔を塗りたくった特殊な造形ということもあって、誇張した演技がマッチするということがあるからだろう。バギーほどではなくても、高い鼻が特徴のウソップも、山口勝平がテレビシリーズとそれほど変わりがない声を重ねている。
押し出しの強さを持ったキャラクターにはそうした演技が求められるということだ。『ONE PIECE』のアニメシリーズが始まった時、すでに『うる星やつら』のメガネ役をはじめ、『北斗の拳』のナレーションや『機動警察パトレイバー』のシバシゲオなどの役で、強烈な演技が知れ渡っていた千葉をバギーに起用し、『らんま1/2』の早乙女乱馬や『犬夜叉』の犬夜叉といった人気作を持つ山口をウソップに起用したのも、その演技力を求めたからなのかもしれない。
逆に、中井も平田も『ONE PIECE』が始まった頃は、まだそれほど大役を演じてはいなかった。アニメシリーズのそれぞれの初登場シーンを見直してみると、ゾロにはまだ吠えるような凄みがなく、サンジもエレガントではあるがどこか軽い。そこから20年余りを経て、それぞれの役といっしょに成長してゾロとサンジというキャラクターのすべてを声に込めて演じられるようになっていった。