奇妙な惑星の日常を描くアニメシリーズ 『ストレンジ・プラネット』が掲示するメッセージ

『ストレンジ・プラネット』のメッセージ

 象徴的なのは、エピソード1「飛行機」に、悲しい気持ちにさせる曲を演奏するロックバンドが登場するという点だ。とくに1990年代を中心に、Nirvana(ニルヴァーナ)、Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)、The Smashing Pumpkins(スマッシング・パンプキンズ)など、暗い曲を歌うロックバンドが人気を博すことになった状況がある。その背景としては、とくに1980年代に急速に発展した、不特定大多数の大衆に大企業がチューニングを合わせるといった、大量生産、大量消費社会があり、そのなかで個性やアイデンティティの喪失に悩む若者たちの内的な叫びを代弁するものがあったのだと考えられる。そんな暗い音楽に耽溺するブルーな若者たちの姿は、90年代に青春を過ごした原作者パイルの見た、世代的な風景そのものなのではないか。

 とくにイギリスのロックバンドRadiohead(レディオヘッド)には、本作のバンドのように、飛行機など交通機関で移動することに対する不安が表現された曲が多く存在する。このように日常の生活や交流を通して描かれる不安感や、自分が世界から否定されていると感じるような自意識の喪失への恐怖、そして耐えられないような孤独感は、本作で深刻な生き難さとして、ビーイングたちを悩ませている。これらの問題は、より経済格差が深刻となり、生存すら難しくなってきた市民が少なくないといえる現在も、依然として解決されないまま横たわっている哲学的課題だといえるのだ。

 では、そんな問題に生きづらさを覚えている「隠キャ」は、どのように生きてけばいいのか。本シリーズが提示するのは、ビーイングによって象徴された人間同士が、互いに想像力を持って助け合っていこうというメッセージだ。本作のビーイングたちは、それぞれに他者との交流のなかで、自分の考えの足りなさに気づくヒントを与えられる。そして考え方を変えてみることで、人生を好転させていくのである。

 本シリーズの登場人物たちのように、他人の人格を尊重しながら優しい言葉をかけ、足りない部分を埋め合い、猫を愛するなどの小さな幸せを見出すことができれば、なんとか1日1日をやり過ごしていくことができるのではないか。自分が生きやすい、優しい世界を作っていくためには、まずは自分が他者に優しくならなければならない。本シリーズ『ストレンジ・プラネット』が理想的な世界、理想的な状態として示唆しているのは、そのような社会のかたちであり、個人が成長と変化を絶えず遂げていくことなのだろう。

■配信情報
『ストレンジ・プラネット』
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