『マイ・エレメント』はコロナ禍のリモートワークが生んだ奇跡? スタッフが語る制作秘話
ディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』の制作には、監督のピーター・ソーンやプロデューサーのデニス・リームに加え、ピクサー・アニメーション・スタジオに所属する数々の技術スタッフが携わっている。主にアニメーターが使うツールの開発を担当したキャラクター・スーパーバイザーのジェレミー・タルボットもその1人だ。米カリフォルニア州にあるピクサー・アニメーション・スタジオで行ったインタビューで、彼はコロナ禍での制作における功罪について語ってくれた。
クリエイティブなものは日々の会話の中で生まれる
ーー『マイ・エレメント』にはたくさんのキャラクターが登場します。キャラクター・スーパーバイザーとして一番チャレンジングだった作業について教えてください。
ジェレミー・タルボット(以下、タルボット):僕にとって一番難しかったのは、『マイ・エレメント』に登場するキャラクターをピート(ピーター・ソーン監督)が普通のキャラクターのようには動かしたくないと思っていたこと、そしてこれらのキャラクターを実際の“エレメント”として描きたいと思っていたことでした。この作品に登場するキャラクターたちにはしっかりした構造がなく、常に体が変化しています。そういった自然に見えるキャラクター造形をピートに気に入ってもらえたのですが、実際に動かす作業は非常に難しかったです。ピートが気に入るような演技をキャラクターにやらせるための鍵を発見するのには、長い時間を要しました。
ーーそこから具体的にどのように形にしていったのでしょう?
タルボット:『マイ・エレメント』に登場するキャラクターは、小さくなったり、広がったり、消えたり、濃くなったりもします。なので、アニメーターがそれぞれのエレメントのキャラクターを自然に動かせるように、彼ら/彼女らの腕や脚に、いくつものテクノロジーの層を重ねました。キャラクターの上に蜘蛛の巣のように曲線を張ることで、アニメーターたちがまるで粘土を扱うかのように、キャラクターの形を変えたりポージングできるようにしたのです。
ーーそこに至るまで、そしてそこからもさまざまな試行錯誤があったわけですね。
タルボット:本当にたくさんありました。僕たちは3週間ごとに、自分たちがやったことをピートに見せるようにしました。その3週間ごとのプレゼンを、8カ月から1年ほどかけて行いました。3週間ごとにピートに見せた中で気に入った部分を残し、それ以外は排除して、先に進めるのです。そうやって進めていく中で、ピートが気に入ったと感じる部分が少しずつ増えていきました。
ーーあなたはこれまでに『ファインディング・ドリー』や『リメンバー・ミー』、『2分の1の魔法』などさまざまな作品に携わっていますが、その中でも『マイ・エレメント』の難易度は高かったですか?
タルボット:今まで関わってきた作品の中で一番難易度が高かったと思います。テクニカル面でも非常に難しかったですが、それに加え、新型コロナウイルスによるパンデミックのせいで、Zoomを通じて自宅で作業をしないといけないという意味でも大変でした。僕たちが複雑な問題を一生懸命解決しようとしていたところにパンデミックの流行が押し寄せ、スタジオが閉鎖されたんです。自宅での作業は、Zoomから退出すると、残るのは自分だけ。自分ひとりでどうするのかを考えなければいけません。そのせいで余計に難しくなりました。ただ一方で、最もエキサイティングな作品のひとつにもなりました。
ーーそれはどういった理由で?
タルボット:どんな作品になるかわからなかったからです。『マイ・エレメント』の作業を始めるときに最初にあったのは、コンセプトアートだけ。パンデミックが始まる前、僕たちはアートルームの壁に貼られたコンセプトアートの数々を見たんです。その後、パンデミックのせいでみんなバラバラになって、2年ほど仕事をしました。ようやく映画が完成しそうになった頃、僕は久々にアートルームを訪れ、2年ぶりに改めてコンセプトアートを見たんです。そして僕は、「実際に僕たちはこの映画を作ったんだ。まるでマジックのようだ!」と思いました。最初に描かれたコンセプトアートが狙ったことを、僕らは実現してみせたのです。これまでの作品では、僕たちはコンセプトアートを毎日見ていました。ですが今回は、新鮮な目でコンセプトアートを見ることになりました。パンデミックのせいでリモート作業になったのは大変でしたが、久々にスタジオに戻って、自分たちの作った作品を初めてビッグスクリーンで観ることができたとき、そしてオリジナルのコンセプトアートと見比べることができたとき、本当に報われたと思いました。僕たちはオリジナルのアイデアにきちんと敬意を払うことができたのです。それは特別な感情でした。
ーーある意味、リモートでも素晴らしい映画を作ることができるという証しにもなったかと思います。
タルボット:そうですね。ただ僕はやはりスタジオでの作業を好みます。パンデミックの後、スタジオに戻ってきて、周囲の人々のエネルギーが僕の仕事にどれほど影響を与えるのかがわかりました。もちろんひとりで静かに集中したいときもありますが、誰かにばったり会って話をする中でアイデアが出てくることもあるのです。たとえ相手が同じ映画に携わっていない人であっても。そういう自然な交流は、家で仕事をしているときには起きないこと。Zoomのミーティングは前もって予定が組まれ、何を話すかも事前に考えます。会話の流れの中で何かクリエイティブなものが生まれる、というのは難しいのです。僕はこのスタジオの中で偶然起こる素敵なことを愛します。ここにはアーティストとテクニシャンの特別なコミュニティがあるのです。
ーー人との交流がいい作品を生むきっかけにもなるわけですね。
タルボット:このピクサー・スタジオで、みんなで力を合わせて映画を作るのはとても素敵なこと。どうやればいいのか誰もわからないことを、問題を乗り越えながら見つけていくのです。それはとてもクリエイティブなプロセスです。パンデミックの中でも、僕らはお互いと親密につながりつつ、毎日を乗り越えていきました。とても奇妙な時期でしたが、僕らにはこのすばらしい仕事があり、そこに飛び込んでいくことができたのです。パンデミックという奇妙な状況でも、それが僕らにエネルギーを与えてくれ、前を向いていくことができました。僕はこの建物にいる人たち、チームと仕事をするのが大好きです。そこからとてもマジカルなものが生まれます。どうすればいいのかわからないときは特に。突然にして何かアイデアが出てきたときは、本当に素敵な気持ちになるんです。エンバーやウェイドのテストを初めて大きなスクリーンで観たときも感動しました。