『らんまん』綾を“女神”にしなかった意図とは? 長田育恵が描き続けるままならない現実

『らんまん』が描き続けるままならない現実

 本作が描くのは、徹頭徹尾ままならない現実だ。万太郎がどう尽力しても、桜の病を治癒することはできないし、タキが初めて抱いた「生きたい」という願いを医師は叶えることができない。「ただ一生懸命頑張ってただけ」の万太郎の存在が、田邊(要潤)を無自覚に何度も傷つけ、それゆえに「植物が好きな者同士」のはずの2人が分かり合える未来が今後描かれそうにないという事実もまたそうだ。

 「身の丈に合わねえ望みは不幸になる」「万ちゃんは恐ろしくならないのかね、いいことがあった分、よくねえことも起きるぞって」という福治(池田鉄洋)の予言めいた不穏な言葉は、「園子の死」を、ままならない現実の一つとして映し出す。抗ったところでどうにもならない自然の摂理とでも言うべきものに対し、人々は何ができるのか。

 その答えは、第90話における寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)が作るご飯と、長屋の人々のごくありふれた、生活の営みを感じさせる会話の中にあるのではないか。まつの料理はいつも美味しそうだ。白梅堂のまかない1つからして、思わず目を引く美しさがあった。旬を取り入れた、優しい料理のぬくもりは、母譲りの料理を作る寿恵子の言葉の端々からも感じることができる。そしてそこには、辛いことがあっても、朗らかに人生を楽しむために、日々工夫を絶やさずに生きてきた人のしなやかな強さがある。彼女の作るご飯は、そんな最強のご飯だ。

 そして、そのまつが作った筍ご飯を囲む長屋の人々は、努めていつも通りの会話をする。今日働いた場所の話。高野豆腐の味付けの塩梅。子供たちは九兵衛(住田隆)に「寿限無」をねだる。それはまるで、奪われてなるものかと愛おしい日々を紡ぎ続けるかのようで、それもまた、日の当たらない「クサ長屋」に住む、彼ら彼女たちの強さである。

(左から)及川福治役・池田鉄洋、宇佐美ゆう役・山谷花純、倉木隼人役・大東駿介

 第83話において、「楽しむことを、もう怖がらなくていいのよ。例え悪い事が起こっても、その先できっとまた笑えるんだから」とゆう(山谷花純)は福治に言った。彼らの強さも、元はと言えば万太郎がもたらしたものだ。十徳長屋の、特別なことじゃなくなった「楽しい」日々は、どん底にいる万太郎と寿恵子のこれからを救うことができるのだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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