『セレブリティ』が描くファンダムの“危うさ”  『【推しの子】』にも通じるメッセージ

『セレブリティ』と『【推しの子】』の共通点

 私たちが日々見て、憧れて、疲れるSNS。「この人、どうやって生活費稼いでいるんだろう」なんて思わず想像してしまうインフルエンサーたちの裏側をサスペンス調に、そして赤裸々に暴くのが、Netflixで配信中の韓国ドラマ『セレブリティ』だ。

『セレブリティ』予告編 - Netflix

 “死んだはず”のインフルエンサー、ソ・アリが突然ライブキャストを始め、何者でもなかった自分がいかにInstagramで成功を収めたのか、その過程で身の回りに起きたインフルエンサーの醜悪な真実を暴露するところから始まる本作。100万単位のフォロワーを持つセレブになるために何をするべきかを1話ごとに紹介する点も面白いが、現在と過去を行き来する中で我々に推理させる「なぜ、ソ・アリは生きているのか」「なぜ、彼女はそもそも死んだのか」「誰が、彼女を殺したのか」というサスペンスの要素が、視聴者を飽きさせない。こういった芸能界の裏側に迫る内容と、殺人の犯人探しがかけ合わさったプロットは、最近まで放送され話題を呼んだアニメ『【推しの子】』を彷彿とさせる。

 実際、『セレブリティ』と『【推しの子】』は、プロット以上にキャラクターが体現するメッセージ性の部分で深く重なっているのだ。

虚構を生み出すインフルエンサーとその“フォロワー”

 パク・ギュヨン演じる主人公のソ・アリはもともと裕福な家庭に育ち、アイビーリーグに進む予定だった。しかし、父親の事業が倒産して一文無しになり、大学も自主大学する他なかった。そんな彼女のブランドバッグを学生時代にお古で貰っていた友達が、大人になって再会したらセレブインフルエンサーになっていて、彼女をSNSの世界に誘う。

 チョン・ヒョソン演じるこのオ・ミネは、典型的な利己的なキャラクターで嫉妬心や劣等感が誰よりも強い。そのほかにも、薬物中毒、売春など様々な秘密を抱えたクセの強いインフルエンサーが登場するが、彼女たちのヒエラルキーはフォロワー数の数で決まる。しかし、そのフォロワー数やいいねの数を裏でお金を払って買っていたり、大概のインフルエンサーが手をつけるブランドビジネスも、蓋を開ければどこかのブランドのデザインを真似たものを作らせているだけのことだったりと、結局のところファンが「憧れ」と言っているものが虚構そのものであることを早い段階で本作は描く。

 そのなかで興味深いのが、「ファンダム」の扱いだ。第3話で、1万人弱のフォロワーを獲得したソ・アリは、オ・ミネをはじめとするトップインフルエンサーの集まり「佳賓(カビン)会」のファンを“侍女軍団”と呼んだ上で、「なぜ彼女たちの侍女になるのか」「なぜセレブがそんなに偉いのか」、自身のInstagramを使って問いかける。自慢話ばかり溢れるSNSにうんざりした自分と同じ想いをしている人はいないか、懸けたのだ。しかし、それが逆にファンとしては見下されたように感じたと同時に「佳賓会」への中傷行為だと受け取られ、「カッコつけるな」「お前が言うな」と叩かれてしまった。結局この炎上は掲示板で何人かが「アリさんの意見は間違っていない」という意見が出始めると、手のひらを返したファンによって肯定され、収束を迎える。

【推しの子】第七話『バズ』WEB予告

 この中傷や炎上の一部始終は、『【推しの子】』の「恋愛リアリティショー編」でほぼ同じように描かれていた。この章は恋愛リアリティーショーの出演者である黒川あかねが誹謗中傷を受け、自殺未遂に至るという本編において最もダークな展開の一つである。この時、共演者のMEMちょが彼女の炎上を“センシティブな問題に対してほとんどの客は叩くべきか擁護するべきか迷っている「サイレントマジョリティー」である”こと、そして“答えを求めているユーザーであり、そこに共感性の高い意見を提供することで多くの人がそれを正義と思い込む”ことと解説しているのが興味深い。結局のところ『セレブリティ』でも、ファンやトピックに興味をもった人が好き勝手に言って、その責任を取らないこと、そして匿名性が持つ凶暴性について重く取り上げている。“ファン”とは聞こえがいいが、その実態は“アンチ”と紙一重なわけで、彼らの言葉が実は想像以上に本人に作用することを本作は強い姿勢で描いた。

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