『らんまん』十徳長屋は物語におけるドクダミだ 福治、ゆう、倉木の“生薬”としての役割

『らんまん』福治、ゆう、倉木は“生薬”だ

 寿恵子(浜辺美波)は、万太郎と結婚した当初、研究に打ち込む万太郎を応援したい気持ちとやりすぎを心配する気持ちとの狭間で大きく揺れ動いていた。洗濯や食事の準備など家事全般をこなす寿恵子だが、もっと万太郎のためにできることはないのか、と日々、悩んでいた。

 その悩みにいいアドバイスをくれたのが魚の干物を売る棒手振りの福治(池田鉄洋)だ。福治は元妻からは「いつまでも棒手振じゃダメだ。自分の店を持て」と言われていたという。稼ぎはそちらのほうが良いし、家族を養うことを考えたら断然そっちを選択するべきだったのかもしれない。だが、福治は現実より「好きなほう」を取った。だから元妻は男を作って自分の元から逃げてしまったのだと福治は考えている。

池田鉄洋

 植物のことになると途端に周りが見えなくなってしまう万太郎は、好きな仕事ばかりして家族のことを深く考えなかった自分自身と重なるところが多いのだろう。そんな思いが「別に万ちゃんなんて立派なやつじゃねえからさあ。ただ好きなものがあって、それしか見てない。それだけなんだからさあ」という言葉に表れている。だからこそ寿恵子への「身の丈に合わねえ望みは、不幸になる」「無茶しねえで、身の丈を見てやれよ」という言葉はぐっと心を掴んでくるのだ。

 万太郎が初めて長屋を訪れた時に一悶着あった倉木(大東駿介)は、念願の『日本植物志図譜 第一集』を発刊したものの、資金繰りに困る万太郎に直接的な援助をしてくれた。寿恵子が倉木の妻・えい(成海璃子)に版元への金が払えないことをこぼすと、倉木夫妻が万太郎夫妻のもとを訪れ、100円が入った包みを置いていったのだ。実はこのお金は、万太郎が倉木に盗まれた植物標本を買い戻す時、倉木に払ったもの。死んだように生きていた時期、万太郎によって救われた倉木は、万太郎が助けを必要としている時に手を差し伸べた。「お前もお前の戦をしているんだろう? これを使ってくれ」という言葉とともに。最初の出会いこそ最悪だったものの、この100円は今や、万太郎と倉木の絆の強さを表すものとなっている。

(左から)及川福治役・池田鉄洋、宇佐美ゆう役・山谷花純、倉木隼人役・大東駿介

 十徳長屋にはドクダミが生えている。ドクダミは匂いが強烈で、嫌な顔をする人も多いが、花期の地上部を陰干し乾燥させたものは、古くから十薬と呼ばれ、生薬として使われてきた。つまり効果のある薬としての側面もあるのだ。

 悩みすぎると良くない方向ばかりに考え、どんどんネガティブになってしまうものだ。でも長屋の人々は元気だし、ここを訪れた人たちは、最初は悩んでいても次の道を見つけていく。もしかしたら、心の傷をじっくり治すような素敵な作用がこの長屋にはあるのかもしれない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる