チェス本でナチスに挑む『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』 現実と妄想の交錯が導く結末とは
作品内では、過去の現実と妄想が交互で描かれているが、この2種類の世界線には共通点がいくつか存在しているように思える。
その中でも特に印象的だったのは、軟禁前のヨーゼフが付けていた“腕時計”だ。ホテルに軟禁され、全ての荷物を没収される際に、ヨーゼフが“腕時計”を名残惜しそうに外している様子や、ヨーゼフの妄想の中で、アメリカに向かう船中においてチェスの世界チャンピオンがヨーゼフが持っていたものと全く同じ“腕時計”をしている姿が描かれていた。世界チャンピオンを見たヨーゼフが、のめり込むようにして暗譜したチェスの知識を駆使し、“腕時計”を奪い返すことに成功するシーンは、全てを失ったヨーゼフの逆転の物語がスタートしていくようにも読み取ることができた。
また、作中で、ホメロスの「オデュッセイア」が、ところどころに引用されていたのも興味深かった。「オデュッセイア」は、英雄オデュッセイアが祖国に戻る旅の話と夫を待っている妻の話を描いているという点においても、本作とかなりリンクしているように思える。
ラストを見届けた際に、「なるほど、こう終わるのね」と一瞬スッキリとした感想を持ってしまった自分もいたが、一方で、本当に自分が見ていた世界が正解なのかという混乱も覚えることができたのが良かった。そして、個人的に『帰ってきたヒトラー』でヒトラー役を演じていたオリヴァーが、本作においてヒトラーと対決する真逆の役を演じていたのが面白かった。
■公開情報
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』
全国公開中
監督:フィリップ・シュテルツェル
原案:シュテファン・ツヴァイク
出演:オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッへ、ビルギット・ミニヒマイアー
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
2021/ドイツ/ドイツ語/112分/カラー/5.1ch/シネマスコーブ/原題:Schachnovelle/G/字幕翻訳:川岸史
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公式サイト:royalgame-movie.jp