『ブラッドハウンド』はアクションファン必見! 爽やかさと凄惨さの絶妙なバランス
まずゴヌとウジンが敵対することになる悪徳高利貸し企業スマイルキャピタル(あまりにもあんまりな名前)のキム・ミョンギル代表を演じるのはバイオレンス・ノワール映画というジャンルにおいて金字塔を打ち立てた『新しき世界』(2014年)のパク・ソンウンだ。『新しき世界』でも見せるネットリとしたヌフフ笑いを本作でも遺憾なく発揮しており(恐らくパク・ソンウンは世界で一番ヌフフ笑いが上手い)『ブラッドハウンド』における最悪ノワール成分を一身に引き受けている。
また、人体の表面をやすり掛けしてそこに塩水を塗り込むというかなりえげつない拷問が繰り広げられるのだが、それをするのが主人公が所属する光の金貸し組織だったりする(光の金貸し組織とは病気の家族を抱える人に無利子でお金を貸してくれる、まさに光の金貸し組織としか言いようのない存在だ)。というわけで韓国バイオレンス成分が大いにある本作はかなり衝撃的で凄惨な展開もある。まるで爽やかな青春を飲み込みそうな勢いだが、そんなドロッとしたノワール成分を吹き飛ばすのが、本作の見どころの一つであるゴヌとウジンのボクシングアクションだ。
『ブラッドハウンド』のボクシングアクションはすごい。今まで様々な格闘アクションを見てきたが、ボクシングを扱ったアクションで、本作のようなものはあまり見たことがない(そもそもボクシング主体のアクションが意外とあまりない気がする)。時折もっさりとした動作になりがちなボクシングアクションを、『ブラッドハウンド』では鋭いハンドスピードでの連打と軽やかなフットワークで魅せる。ボクシングの機能的な美しさをこれ以上なく活かした形だ。それがアクションの爽快感に繋がっている。また、そんなスピードとテクニックのゴヌとウジンが挑むのが巨漢のパワータイプだったりMMA使いの殺し屋だったりするのがにくい。これも『ミッドナイト・ランナー』でラスボスが執拗なローキックで主人公の機動力を奪う最悪ローキック野郎を配置したキム・ジュファンのセンスを感じる。また、巨悪に格闘技の選手が挑むのはかなり『ディヴァイン・フューリー/使者』的だ。
2人の男の瑞々しい青春バディと死と暴力が蔓延るドロドロのノワールと切れ味の鋭い爽快ボクシングアクションが絶妙なバランスで成り立っている『ブラッドハウンド』は、まさにキム・ジュファンの作家性がドラマというフォーマットで遺憾なく発揮された作品だ。終盤2話は明らかに制作中にとんでもないトラブルがあった味わいがあるが(実際に調べるといろいろあったらしい)それを加味しても是非……いや、だからこそ観てほしいと思える最高のドラマだ。
■配信情報
『ブラッドハウンド』
Netflixにて配信中
出演:ウ・ドファン、イ・サンイ、ホ・ジュノ
原作・制作:キム・ジュファン
©2023 Netflix, Inc.