笑いあり涙あり オムニバスドラマ『ああ、ラブホテル ~秘密~』の多彩なジャンルにハマる

笑いあり、涙あり『ああ、ラブホテル 秘密』

 存在自体が究極の秘密を抱えているとも言える“ラブホテル”。そこで繰り広げられるさまざまなエピソードを、現在の日本映画、ドラマ界で注目を浴びる監督たちが、それぞれに得意な味付けで料理してみせる、笑いあり涙ありのオムニバス形式コメディドラマ『ああ、ラブホテル』(WOWOW)。2014年に第1弾が放送されて好評を博した本シリーズが9年ぶりに復活し、『ああ、ラブホテル ~秘密~』と題してWOWOWにて放送・配信が開始された。全9話、18エピソードにわたって放送される本シリーズから、特に新進気鋭の監督の手腕が光る、第5話~7話をピックアップする!

第5話『再見、生活費』&『愛しき隣人』

 第5話で監督を務めるのは内山拓也。先月31歳を迎えたばかりの新鋭だ。藤原季節主演の映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)で知る映画ファンも多いだろう。2エピソードのうち、最初のエピソードのタイトルは『再見、生活費』。中国語であり、この言葉がキーとして絡んでくる。ラブホテルの一室。買い出しに出た夫・治(瀬戸康史)を待っていた妻・杏子(瀧内公美)のもとに、隣室で男に暴力を振るわれたという中国人女性・リン(三村朱里)が助けを求めて駆け込んで来て……。

 瀬戸と瀧内は2021年に放送された『男コピーライター、育休をとる。』(WOWOW)でも夫婦役で組んでおり、相性も息もぴったり。非常にテンポのいい芝居を見せてくれる。瀬戸の愛らしさと情けなさを含んだチャーミングさや、瀧内の女も惚れるサバサバした魅力が全開。また、本作は全編をGoProで撮影。天井や冷蔵庫の中、水槽など、普段とは違うカメラアングルからの映像がふんだんに登場し、リンの登場でわちゃわちゃした空気になるラブホテルの一室を見事に表現している。

 『愛しき隣人』は一転して渋いつくり。ある日、学生時代からの先輩にラブホテルに呼び出されたテツ(光石研)は、先輩ヤス(酒向芳)からある決心を打ち明けられるが、実はテツも大きな秘密をその心に抱え続けていた。

 光石と酒向の並びがまず渋い。だがそれがいい。演技の達者なふたりだけの芝居を、じっくりと、緊迫感をみなぎらせながら、物語へと引き込んでいく。『再見、生活費』のGoProの今っぽさとはまた全く違う、どこかセピア色で包まれたような映像も、さらに全体を引き締めている。物語の展開としても、後半大きな動きがあるのだが、同じラブホテルの一室を舞台に、ひとりの監督がこうも違う世界を生み出すのかと思うと、1話2エピソードの意義を特に楽しめる回といえる。

第6話『フロント9番』&『十八番』

 第6話の近藤啓介監督も1993年生まれのこれからを担う監督。どちらも人気を得たドラマ『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京系)や『婚活探偵』(BSテレ東)などを担当してきた。『フロント9番』では、彼女と初めてラブホテルにやってきたかっこつけ彼氏・ひろし(金子大地)が、ふんわりウブ系の彼女・ミサ(片山友希)の前でいいところを見せようとするも、空回りしていくさまが描かれる。

 まずはなにより金子のコメディ演技が素晴らしい! “彼女と初めて”ラブホテルに来たひろしと先に説明したが、実はひろしは、ミサとラブホテルに初めてどころか、ラブホテルに来たこと自体が初めて。一歩足を踏み入れた瞬間から、すべてが初体験。タイトルでもある“フロント9番”に関しても、フロントにかけようとして、「9番? そんな短い電話番号あるわけないよ」と信じられない。そんなすべてに対する戸惑いを、ミサに悟られまいと必死な姿がかわいらしくて笑ってしまう。

 『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)の頃などは、ミステリアスな瞳やクールな雰囲気が印象的だった金子だが、キャリアを積み、非常に巧い役者になった印象だ。体の使い方もいい。最近は『育休刑事』(NHK総合)でも掛け合いの心地よさを見せていたが、本作でコメディとの相性の良さをさらに確信させる。終盤には中村無何有演じるホテルスタッフも登場し、一触即発の危機が訪れるのだが、ふんわり系彼女ミサ役の片山もバッチリハマり、ラストの切なさには、ひろしに感情移入どっぷりな男子諸君はホロリと泣いてしまうかも。

 もう一篇の『十八番』は、人生の機微に触れたような不思議な感慨が訪れる。いつも新作の稽古をラブホテルでしているという落語家の師匠・柳風亭晩乃輔(大鷹明良)。弟子の柳風亭どん輔(櫻井健人)は、とにかく師匠の落語が大好きで、誰よりも早く師匠の新作が見たいのだが、絶対に見せないと部屋から追い出されてしまう。そこで、隣室の不倫カップル(芹澤興人、成嶋瞳子)に頼み込み、師匠の部屋の音を盗み聞きしようとするが、師匠にバレてしまう。

 どん輔いわく、晩乃輔の落語はなによりも人情噺が十八番、素晴らしいという。どん輔の熱弁に打たれた不倫男のマサオは、「それほど見せられないと拒否するのは、感動させる自信がないからでは? 自信があるなら素人の自分たちに見せて感動させてみろ」と晩乃輔を挑発する。どこか昭和顔の組み合わせの大鷹と櫻井の面構えが魅力的。舞台で実力を見せる大鷹による師匠然とした動きも堂々たるもの。この師匠にある秘密があるのだが、それによってどん輔が迎える出来事に笑ってしまいつつ、どん輔はこれからどうなるだろうかとラストの先を考えてしまった。

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