『らんまん』亀田佳明演じる野宮の不穏な言葉 万太郎は“権威”とどう向き合うのか
『らんまん』(NHK総合)第38話で、万太郎(神木隆之介)は竹雄(志尊淳)に東京大学の学生たちから部外者扱いを受けるさみしさを打ち明ける。竹雄は気落ちする万太郎を心配そうに見つめていたが、すっくと立ち上がると「綾様〜! 若が人並みなことを言うちょりますき!」と清々しい顔つきで声をあげた。突然の竹雄の行動に戸惑う万太郎だが、竹雄は再び万太郎と向き合うと喝を入れる。
「今さら、人と話せんばあで何を落ち込むがですか? 大事な人を裏切ることと草花の道を究めること、てんびんにかけてこちらへ来たがじゃないですか」
きっぱりとした物言いで発せられる竹雄の言葉が万太郎に奮起を促す。長年、万太郎のお目付け役として万太郎を支えてきた竹雄は、万太郎が抱える孤独も、万太郎の誰にも負けない植物への情熱も理解している。竹雄は万太郎に「研究室のお人らは、さぞご苦労されて大学の門をくぐられたがでしょう。けんど、わしは捨ててきたもんの重さなら、若は引けをとらんと思うちょります」と伝えた。竹雄を演じる志尊の表情や台詞の言い回しには、年が近い万太郎と竹雄の仲の良さだけでなく、若とお目付け役という特有の関係性が感じられる。竹雄の真剣な物言いと面持ちからは、万太郎への信頼がうかがえる。決して厳しいだけでない竹雄の叱咤に、万太郎だけでなく視聴者も励まされたはずだ。
元気を取り戻した万太郎は、東京の草花をもっと知ろうと、倉木(大東駿介)の案内で植物採集をすることを思いついた。泥だらけで大学へやってくる万太郎だが、その表情はイキイキとしている。植物学教室の学生である波多野(前原滉)と藤丸(前原瑞樹)は、はじめこそ万太郎の様子に戸惑っていたものの、植物を通じて、万太郎と打ち解ける。画工の野宮(亀田佳明)から「来たばかりなのにもう打ち解けてるんですか?」と言われ、少し顔がほころぶ万太郎だが、野宮が続けた言葉が少しだけ引っかかる。
「これでひとまず安泰じゃないですか? 教授の役に立つうちはここにいられますから」
野宮の言葉が万太郎の心をざわつかせるが、そんな野宮とも、万太郎が描いた竹雄の似顔絵がきっかけで打ち解けることができた。万太郎が描いた植物画が目に入り、感銘を受けた野宮の表情が強く印象に残っている。万太郎もまた、野宮が西洋画のやり方で描いた植物画に心打たれていた。