ジェニファー・ロペスの人生を象徴? Netflix映画『ザ・マザー』に込められたメッセージ

 娘のゾーイは、当初はザ・マザーの振る舞いに反感を覚え、ことあるごとに反発するが、ゾーイ自身が理不尽な暴力に巻き込まれ、母とともに戦わざるを得ない状況に陥ったとき、はじめて彼女は母の置かれてきた厳しい境遇を知ることとなる。この共闘によって、ゾーイもまた闘いに身を投じざるを得ない世界で生きる女性として成長していくのである。

 それだけでなく、ザ・マザーのパーソナリティは、ある意味でそれを演じるジェイローを想起させるところがある。もちろん、ジェイローは主人公のように殺人の訓練を受けてきたわけではないだろうが、ショービズ界という、一般的な職業とは異なった特殊かつ熾烈な環境で、自己管理と鍛錬という想像を絶する努力によって長いキャリアを生き延びてきたという点では、ザ・マザーの境地はまさにジェイローと共通しているといえるのではないだろうか。

 また、スーパーボウルのハーフタイムショーで、実の娘を出演させパフォーマンスを指導したように、特殊な業界での生き方を子どもに経験させることが、アラスカでの娘のサバイバル指南と重なるのである。役と実際の境遇を部分的にクロスオーバーさせるというのは、ジェイローのように、多くの人々がそのプライベートを知っている大スターでなければあり得ないことだ。

 そもそもジェイローのクラスにまでなってくると、一俳優として映画に出演させるには、逆に難しいところがある。彼女のパブリックイメージが強すぎて、何を演じても実際の彼女の存在感が突出してしまうからである。その意味では本作のように、役柄の方を本質的な部分で俳優のパーソナリティに寄せていくことで説得力を与えるという手法は効果的だといえよう。それは取りも直さず、ジェイローがその場所にまで登りつめた存在であることを示しているのである。

 本作のクライマックスにおける母親と娘とが抱擁するシーンは、このように現実の社会問題という背景や、ジェイローのパーソナリティに主人公を同期させるという試みなど、数層の意味合いを重ねるといった試みによって、より味わい深いものになったといえるだろう。

■配信情報
『ザ・マザー:母という名の暗殺者』
Netflixにて配信中
監督:ニキ・カーロ
出演:ジェニファー・ロペス、ジョセフ・ファインズ、オマリ・ハードウィック、ガエル・ガルシア・ベルナル、ポール・レイシー、ルーシー・パエス

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