『水星の魔女』能登麻美子が狂気のプロスペラを怪演 ミオリネとスレッタの秀逸な対比も

『水星の魔女』能登麻美子がプロスペラを怪演

 前話が“動”だとするならば今話は“静”。だが、静けさの中にも多くのフラグ回収があり、物語はひんやりと張り詰めた空気感が漂い始めた。ピンと張られた糸がわずかな振動でちぎれてしまいそうな緊張感。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第16話「罪過の輪」では、プロスペラの目指す理想やエアリアルの中にはエリクトが複数存在することがはっきりと示された。

『水星の魔女』“裏主人公”グエルがどん底から這い上がる それぞれの父と子の関係性

ようやく“ガンダムらしい人間関係”が描かれた。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の第15話「父と子と」では、裏主人公と囁かれていた…

※本稿には『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第16話のネタバレを含みます。

 第14話のプロスペラとベルメリアの会話から始まった冒頭。プロスペラの娘であるエリクトの生体コードはデータストームと完全に同調できていたはずだったが、幼いエリクトの体は過酷な宇宙の環境には耐えられなかったようだ。そこでプロスペラはオックス・アース・コーポレーションが開発した試作機であるルブリスを改修してエアリアルとしてエリクトの命を繋いでいた。つまり、データストームのネットワークを使って、エリクトのデータを保存しているということ。そしてプロスペラはクワイエット・ゼロを起こすことによって、データストームを広げる(=膨大な量のデータをやり取りできる)ことができれば、「エリィは自由に生きることができる」と言っていた。

 スレッタとミオリネの温室での会話の中でそれぞれの立場が示されたのも興味深い。プラント・クエタでの出来事を謝罪したスレッタに対し、ミオリネは後悔の念に晒されていたことを告げる。しかし、スレッタが「正しいことをした」と笑顔で言った途端、ミオリネは表情を変え「なんでそんな風に笑えるの? 私は笑えない。正しくても笑っちゃいけないよ」と激昂する。どんな理由であれ人殺しを受け入れられないミオリネと、母親の言うことであれば人殺しを正当化することを厭わないスレッタ。まるで母親に洗脳されているかのように、ミオリネの言葉に対して表情を一切変えないスレッタは不気味だ。

 このシーンでは印象的な演出があった。完熟した赤いトマトに映し出されたミオリネと、まだ青いトマトに映し出されたスレッタの対比。親から自立しているミオリネ、まだ自立できていないスレッタの比喩表現が細かい。それにしてもスレッタの母親への過剰な信頼はどこから来るのだろうか。

 ラストではプロスペラが、デリングの娘であるミオリネに自らの復讐心を伝える。

「あなたにも聞いてほしいわ。殺された同胞の悲鳴と叫びを。復讐を果たせ、デリングを殺せと今も耳元で囁いている」

 今回はプロスペラを演じる能登麻美子の演技が印象的だった。エリクトへの狂気的な愛情、そして協力することを断られたベルメリアに対し、矢継ぎ早に攻めて立てていくプロスペラの話術、ミオリネの耳もとで囁く声。能登の血の通っていない理路整然とした物言いはプロスペラが持つ恐怖を強調していた。顔面が半分覆われているからこそ、プロスペラの得体のしれなさがより際立つ。プロスペラのデリングへの恨みは思ったよりも、根強い。とはいえ、デリングの行いに対する正当化が日に日に進んでいる印象があるが、「PROLOGUE」で行われたヴァナディース事変は到底許されるべきものではないし、『水星の魔女』の物語の基点でもある。全てはデリングから始まったのだ。それは巡り巡って娘であるミオリネも同じ輪の中にいることを意味している。

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