『ラストマン』は期待を超える仕上がりに 第1話から“無敵の人”を扱った黒岩勉脚本の誠実さ

『ラストマン』黒岩勉脚本の誠実さ

 一方、脚本を担当する黒岩勉は、TBS日曜劇場では『グランメゾン東京』、『危険なビーナス』、『TOKYO MER~走る救急救命室~』、『マイファミリー』を1年ごとに執筆しており、今回の『ラストマン』で、5本目のドラマとなる。

 中でも『TOKYO MER』は大きな転機となった作品で、本作と『マイファミリー』の成功によって、情報量の多い過密な物語が二転三転していく「クライムサスペンス」という新しい柱が日曜劇場に生まれ、これまでとは違う若い層の取り込みに成功している。

 大規模な犯罪に巻き込まれた各登場人物がリアルタイムで状況を瞬時に理解し、最善の可能性をギリギリのところで選択しながら次々とトラブルを乗り込えていく様子を、スポーツの実況中継のように見せていくストーリーテリングは、出世作となった『僕のヤバイ妻』(フジテレビ系)を筆頭とする黒岩作品の大きな魅力となっており、『ラストマン』でも存分に発揮されている。

 この第1話では、都内無差別連続爆破事件の犯人を捕らえるために、皆実と心太朗が捜査を進めていく。犯人の居場所を特定し、じわじわと追い詰めていく過程で、カメラの映像を文字情報に翻訳して伝えるアイカメラや、技術支援捜査官の吾妻ゆうき(今田美桜)と心太朗がアイカメラの映像を共有して、バックアップするオペレーションシステムという最新技術を駆使した捜査方法が矢継ぎ早に描かれる自己紹介的なエピソードとなっている。同時に今後、重要なテーマとなっていくと感じたのが、犯人の人物造形である。

 皆実は、自分を排除した社会に対して恨みを持つ強い意思を持った人間が爆弾装置を作り、それを見ず知らずの他人に配っていると分析し「おそらく自殺サイトや社会的脱落者たちのスレッドに集まった、人生を諦めどうなってもいいと思ってる人達。今の日本風に言うと『無敵の人』というのでしょうか?」と犯人について語る。

 近年の日本では「無敵の人」が起こす無差別通り魔事件が社会問題となっている。昨年は安倍晋三元首相が選挙応援演説中に暗殺され、今年の4月16日にも、選挙応援のために和歌山を訪れた岸田文雄首相に爆発物が投げ込まれるテロ事件まで発生している。こういった現実を踏まえた上で観る『ラストマン』はとても生々しく、よくぞ「無敵の人」問題を扱ってくれたと感銘を受けた。

 逮捕した青年に対して皆実は「確かに今の社会は弱い人はいらないという考え方です。でも、排除された人たちにもやれることはあります。それを見つけ出すのはとてつもなく大変なことですが、助けてくれる人は必ずいます。私は多くの人に助けられて生きてきました。世の中には不必要な人間なんていないんです」と語りかける。

 この台詞を聞けただけでも、本作を観てよかったと感じた。今、フィクションがやるべきことに挑んだ誠実なドラマである。

■放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:福山雅治、大泉洋、永瀬廉(King & Prince)、今田美桜、松尾諭、今井朋彦、奥智哉、王林、寺尾聰、吉田羊、上川隆也
脚本:黒岩勉
演出:土井裕泰、平野俊一、石井康晴、伊東祥宏
撮影監督:山本英夫
プロデュース:益田千愛、元井桃
編成プロデュース:東仲恵吾
音楽:木村秀彬、mouse on the keys
全盲所作指導:ダイアログ・イン・ザ・ダーク
協力:日本視覚障害者団体連合
製作:TBS
©︎TBS
公式Twitter:@LASTMAN_tbs
公式Instagram:LASTMAN_tbs

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる