『あまちゃん』が名作と呼ばれる理由 朝ドラの“様式美”を踏襲した作劇の凄さを読み解く

『あまちゃん』が名作と呼ばれる理由

 “お約束”の誇張・増幅といえば、夏が経営する「喫茶リアス」と「スナック梨明日」の“二毛作”にも驚かされた。朝ドラでは、複数の登場人物が集まってしゃべる「溜まり場」が不可欠なのだが、通常は喫茶店なら喫茶店、赤ちょうちんなら赤ちょうちんと、昼と夜で別の場所に分かれている。

 『あまちゃん』ではこの“二毛作”設定により、「喫茶店タイムからスナックタイムへの切り替わり」によって空間を広げ、同じシーンの後半に人数が増えたり、大きな動きが出ても対応できる。この画期的システムが、本作の名物といえる「長回し」の見応えを作り出している。

 「ヒロインの旅立ちのシーン」も、朝ドラの“必須項目”と言える。アイドルを目指してアキが上京する日、夏が大漁旗を振って見送るくだりは、本作の名シーンひとつだ。さらに同じ回で、25年前に春子が上京する際も、実は同じように夏が大漁旗を振って浜から見送っていたという事実が、勉(塩見三省)から明かされる。そしてこれは、本作チーフ演出の井上剛がサードDとして演出に携わっていた『ちりとてちん』(2007年度後期)の名シーンへのオマージュであることは明らかだ。

 朝ドラでは、主人公が夢や野望を抱いて地方から都市部に出ていく、あるいは「地方→都市部→Uターンで帰郷」という2パターンが圧倒的に多いが、『あまちゃん』は「東京」と「地方」の位置付けが独特だ。アキは、ひょんなことから母の生まれ故郷に連れられてきて、そこで居場所を見つけ、水を得た魚のように生き生きしだす。その後東京に戻ってアイドルを目指すが、震災後の復興に全力で向き合いたいと願い、北三陸へ戻る。

 物語は、春子がアキを連れて24年ぶりに東京から北三陸へ帰郷するところから始まる。春子は「北三陸→東京→北三陸→東京」というルート、アキは「東京→北三陸→東京→北三陸」と、2人して逆方向の、Uターンならぬ「Nターン」をたどっている。こうした「変則」も面白い。

 このように『あまちゃん』は、朝ドラの“お約束”の押さえるところはきちんと押さえつつ、時にはそれを大胆にアレンジしたり、進化させたりしている。最後に、十八代目・中村勘三郎の名言を置いて、本稿を閉じたい。

「型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し」

 破天荒に見えて丹念な作劇。イレギュラーに見えて、守るべき「基本」は守る。だから『あまちゃん』は名作なのだ。

■放送情報
『あまちゃん』
NHK BSP・BS4Kにて、毎週月曜から土曜 07:15〜07:30放送【全156回】
出演:のん(当時:能年玲奈)、小泉今日子、宮本信子、蟹江敬三、尾美としのり、杉本哲太、有村架純、渡辺えり、平泉成、小池徹平、橋本愛、福士蒼汰、薬師丸ひろ子、古田新太、松田龍平ほか
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
初回放送:2013年4月1日~2013年9月28日

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