坂口健太郎×斎藤飛鳥×市川実日子×伊藤ちひろが語る、『サイド バイ サイド』の“不気味さ”

『サイド バイ サイド』監督&キャスト座談会

「美しくて怖いものがたくさん映っている」

――お三方の共演シーンだけを切り取っても、最初と最後で距離感や関係性が大きく変わっていきますよね。言葉で、というよりも、その場で生まれるものを掬い取っていく中で生まれたものなのでしょうか?

坂口:それに近いと思います。監督の演出方針として、「ここが100%正解」というのをあまり明確にせず、ある程度でぼやけさせておいて、その方向に向かっていく作り方をしていました。その過程で、何が詩織や未山に合っているかを固めていく作業が現場で多々あったので、自分の中である程度決めきっていってしまうと、方向がズレたときに摩擦が生まれてしまう。だから、現場でその瞬間に生まれたもの・感じたことを臨機応変に出せるように、感覚を鋭敏に保つ必要がありました。意識を張り巡らせる時間が長いほど疲れてくるし、ある意味とても大変なアプローチではありましたが、今のこの雰囲気を見ていただければ伝わる通り楽しくやっていました。いろいろと喋りながら探すという感じでしたね。

市川:そうですね。「こうしよう」と話し合うというよりも、言葉にせずにお互い感じ取り合いながら、接していく中で役を見つけていく現場でした。だから最初は、(齋藤)飛鳥ちゃんと私はバッチバチでした(笑)。

齋藤:(笑)。

坂口:「こうやって」と言われる方が、僕たち(俳優部)にとってはある意味簡単なんです。そこにどう心情を乗せていこうかという話になるから。でも今回は、ふわっとした範囲の中で模索していく時間が主でした。例えばシーンの合間に台本に書かれていないことをちらほら話して、それで役が見えてくるような。

市川:みんなが静かに探していましたよね。美々と一緒に遊んでいる時間もすごく大事でした。撮影の合間の「あっ、虫がいるよ!」みたいに話していることすらも繋がっていて、カメラの前に立った時にそれが自然と出てくる。

伊藤:この作品自体が言語化して整理されたものでは表現できないからこそ、みんなで感覚的に創っていきました。特に坂口さんは私から見ても「張り巡らせているな」と感じました。全体の空気そのものを大切にしてくれていました。

坂口:現場だから、というのもあるかと思います。スタッフさんと「どうやって作っていこうか」とコミュニケーションを取る必要もあったし、現場では意識的にそうあろうとはしていました。

――カメラのポジショニングについても、現場で探っていったのでしょうか。

伊藤:それは割と決めていました。自然が映ったときなどに存在感が変わるので、ヒキ画は現場で決めることが多かったですが。

――観る側においては、想像する楽しみがある作品かと思います。最後に改めて、『サイドバイ サイド 隣にいる人』を気になっている方にメッセージをいただけますでしょうか。

坂口:僕は観ていただいた方にこう思ってほしい、というのはありません。観てもらった瞬間にその人のものになるだろうし、捉え方もその人の生きてきた環境や歴史によるでしょうし。『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、それがより顕著に表れた作品のような気がしています。極論を言うと、その人が朝何を食べたかで変化があるかもしれません。

市川:本当に!

坂口:力強い相槌だ(笑)。冒頭で実日子さんが言ってくれたように、観ていただくタイミングによっても印象が変わるような気がしています。この作品っていろいろなシーンでスカッとしてほしいとも思わないし、心にふんわりと、もやっとしたものが残るのも魅力だと感じています。観た後にお客さんの中で「あのシーンはどういうことだったんだろう、どんな意味が込められているんだろう」と考える時間ってすごく豊かなものだと思いますし、何かを持ち帰ってもらえたらそれだけで正解かと思います。

――齋藤さんはいかがですか?

齋藤:すごく素敵でした。「左に同じです!」と言いたいところですが(笑)、私が完成した映画を観たときにパッと思ったのは、いい意味で不気味だということです。綺麗なものって、どこか不気味だったりするじゃないですか。そういった感じで、何か心に引っかかる作品だと思います。私は脚本も読んだし、現場にも行ったけど、まだどこか得体のしれない作品だと感じています。だから観て下さる方に「ここをわかってほしい。理解してほしい」と言うのもおこがましいですね。得体のしれない何かが胸につかえてくれたらと思います。

市川:そうですね。言葉ではなく表情だけで感情を表現している部分もあるので、見方によって受け取り方が大きく変わる作品だと思います。音や自然もそうだし、美しくて怖いものがたくさん映っているので、映画館という最高の環境で感じ取っていただけたら嬉しいです。

伊藤:私の中でも、この映画は寓話的に表現したいという想いがありました。人との距離や自然、不気味な部分もそうだし余白も含めて、それぞれに感じ取れるものが奥に隠れています。それが皆さんそれぞれの生活と重なったら、すごく素敵だと思います。

■公開情報
『サイド バイ サイド 隣にいる人』
全国公開中
出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、茅島成美、不破万作、津田寛治、井口理(King Gnu)、市川実日子
監督・脚本・原案:伊藤ちひろ
企画・プロデュース:行定勲
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介、倉田奏補、古賀俊輔
プロデューサー:小川真司 新野安行
音楽:小島裕規 “Yaffle”
主題歌:「隣」クボタカイ(ROOFTOP/WARNER MUSIC JAPAN)
製作:「サイド バイ サイド」製作委員会
制作プロダクション:ザフール
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

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