『どうする家康』“椿”な田鶴をやり抜いた関水渚の名演 阿部寛の圧倒的威圧感も
『どうする家康』(NHK総合)第11回「信玄との密約」。三河国主となり、姓を徳川と改めた家康(松本潤)は、今川領の駿河・遠江を狙う武田信玄(阿部寛)と談判することになった。信玄と密約を交わした家康は、武田軍が駿河侵攻を開始すると同時に遠江侵攻を開始した。遠江の引間城には、瀬名(有村架純)の親友で、城主となった田鶴(関水渚)がいる。
第11回で田鶴は、最後まで己を貫いた。田鶴は今川家の重臣である鵜殿長照(野間口徹)の妹で、瀬名とは幼少からの友人だ。今川と徳川が敵対関係となっても瀬名との友情関係は続いた。そんな田鶴の今川への愛と忠義心は強い。田鶴は徳川と結ぼうとしていた夫・飯尾連龍(渡部豪太)の誅殺に絡んでおり、城主となった後は今川方として結束する。
田鶴を演じている関水は、直近では『ハマる男に蹴りたい女』(テレビ朝日系)で、藤ヶ谷太輔演じる主人公・紘一を振り回すズボラお仕事女子・西島いつかを演じていたのも記憶に新しい。そんな関水が本作で演じたのは、強い意志をもつ凛とした人物だ。
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瀬名からの文を読む場面では、演出上、逆光ではっきりと表情が汲み取れない場面でありながら、友人である瀬名を大切に思う気持ちと、今川への忠義心を忘れた徳川方への確かな怒りが感じられた。髪を尼削ぎにし、家臣たちの前に立った田鶴の顔つきには気迫がある。「皆の者、戦に備えよ」と発した田鶴の厳しい面持ちに、瀬名と敵対する関係になろうとも引間城を守ると決めた覚悟が感じ取れた。
瀬名は田鶴に徳川方へつくよう幾度も文を出すが、「今川の世は終わったのです」という瀬名の声を背景に映し出された田鶴はいらだって見えた。田鶴の家臣たちが、降伏を促すために現れた鳥居元忠(音尾琢馬)に対し、「今川へのご恩、忘れおって!」と怒りをあらわにしていたのと同じように、田鶴は「今川の世は終わった」という一文に心を踏みにじられ、憤ったはずだ。元忠を見下ろす田鶴の視線は冷たく、情け容赦がない。元忠含め、徳川方をはっきりと敵対視し、その姿勢は決して揺るがない。
小雪のちらつく夜明け、田鶴は筆をとる。瀬名に会いたい気持ちを綴る田鶴だが、家康や亡き夫・連龍、今川への恩を忘れた者に対する憎しみがその横顔に滲む。だが、笑ってばかりいた瀬名との思い出を振り返るうちに、田鶴はその頃と同じような笑顔を浮かべていた。元来、田鶴はすがすがしい笑顔が魅力的な人物だったはずだ。田鶴は、瀬名と過ごした頃の、雅で美しかった駿府の町を取り戻したいと願っている。薙刀を手にした甲冑姿の田鶴は凛々しく、迷いがない。家康の説得むなしく、田鶴は「かかれ〜!」と声をあげ、部隊を率いて果敢に向かってきた。徳川軍の鉄砲が一斉に火を吹き、田鶴の体を貫く。
「椿が好きなのはな、雪の寒さの中であろうと独りぼっちであろうとりんと咲く姿に憧れるからじゃ」
「世に流されず、己を貫いているようで」
「田鶴は、椿のようなおなごになりたい」
関水は、この台詞を体現するかのように凛とした眼差しと佇まいで田鶴を演じきった。瀬名にとっては大切な友人との悲しい別れとなってしまったが、瀬名を静かに見つめる田鶴はそっと微笑んでいた。田鶴は最後まで、瀬名との友情を大事につないでいたということだろう。