アジア人初のアカデミー賞主演女優賞受賞! ミシェル・ヨーの女優としての足跡をたどる

祝オスカー受賞、ミシェル・ヨーのこれまで

ハリウッドデビュー以降の多彩なフィルモグラフィー

 1997年、ヨーに大きな転機が訪れる。『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』でハリウッドデビューを飾ったのだ。彼女が演じたのは、中国のスパイであるウェイ・リン。ジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)とともに、フェイクニュースによってイギリス・中国間で戦争を起こそうとするメディア王エリオット・カーヴァー(ジョナサン・プライス)の陰謀を阻止する。彼女が演じたリンは、これまでのボンドガールとは全く違っていた。同作では、格闘はほぼリンにおまかせで、彼女は素手で銃を持った複数の敵に立ち向かう。物語に華を添えるだけではない、“戦うボンドガール”として注目を集めた。

 その後、ヨーは主に香港とハリウッドを股にかけて活躍するようになる。その役柄は、“カンフーアクションスター”の枠に留まらない幅広いものだ。2000年に公開され、アカデミー賞で外国語映画賞など4部門を受賞した『グリーン・デスティニー』では、チョウ・ユンファ演じる主人公リー・ムーバイと同門の弟子で、お互いに密かに想いを寄せているユー・シューリンを演じた。チャン・ツィイー演じるイェンとの格闘シーンでは、剣や槍などさまざまな武器を使って華麗な技をくり広げる一方で、ムーバイとのもどかしいやりとりでは、繊細な演技を見せる。渡辺謙や桃井かおりらと共演した『SAYURI』(2005年)では、主人公を一人前の芸者に育て上げる先輩芸者、豆葉を演じた。さらに、『カンフー・パンダ2』(2011年)や『ミニオンズ フィーバー』(2022年)などのアニメ映画でも、声の出演をしている。そして『クレイジー・リッチ!』や『ラスト・クリスマス』(2019年)では、コメディエンヌとしての力量も見せつけた。意外にもSF作品にも多く出演しており、特にテレビシリーズ『スタートレック:ディスカバリー』(2017年〜現在)で演じるフィリッパ・ジョージャウは、その威厳と愛情深さを表現する一方で、平行世界の別の彼女は冷徹で、その見事な演じ分けで人気キャラクターとなった。

『SAYURI』(写真提供=Album/アフロ)

 また『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)では、主人公の伯母イン・ナンを演じ、彼を導く重要な役割を担っている。同作で彼女は太極拳をアレンジしたような、優雅でありながらキレのあるアクションを見せており、やはりアクション俳優として衰えない魅力を見せつけた。

 これまで出演作が途切れなかった彼女は、満を持しての主演作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で、香港アクションのようなコミカルかつ激しいアクションを披露。原点回帰とも言える同作のアクションで最高の魅力を放ち、今回のアカデミー賞ノミネート(受賞)という偉業を成し遂げたのだ。

アジア人女優として背負うもの

 2月26日(アメリカ現地時間)に行われたSAG賞(全米映画俳優組合賞)の授賞式で、主演女優賞を獲得したミシェル・ヨーは「これは、私だけのものではありません。私のような見た目の女の子全員のものです」と語った。ハリウッドでアジア系女優がキャリアを築くのは、並大抵のことではなかったはずだ。Variety誌のケイト・ブランシェットとの対談で「あなたみたいなキャリアを送りたかった」と言った彼女の言葉は、それを物語っている。香港アクション映画で、男性ばかりの中でアクション女優の道を切り開いたこと。従来のボンドガールのイメージを打ち破ったこと。その後もステレオタイプな役を嫌って、さまざまな作品に出演してきたこと。多くの人種的マイノリティの俳優たちがそうだが、ミシェル・ヨーもまた、後進の女優たち、ひいては多くのアジア人女性に勇気を与えてきた。彼女はこのことにも、自覚的に取り組んできたのだろう。

 数多くの慣習を打ち破り、偉業を成し遂げてきたミシェル・ヨー。今後も『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(2023年)や『アバター3』(2024年公開予定)など、話題作が控えている。近年、年齢を重ねるほどに良い役が回ってこなくなると多くの女優たちが声を挙げはじめたなか、60歳にしてこれまでのキャリアのなかで最高に輝いている彼女は、アジア人だけでなく、幅広い年齢の女性をエンパワメントしている。

参考

※ https://www.salon.com/1996/07/22/yeoh960722/

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