大ヒット作が並ぶ第46回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞 5作品を振り返る

『すずめの戸締まり』

『すずめの戸締まり』©︎2022「すずめの戸締まり」製作委員会

 『天気の子』(2019年)から3年ぶりの新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』は、地震や災いの根源「ミミズ」を封じる“閉じ師“の青年・草太と、17歳の高校生・鈴芽(すずめ)の出会いから、人間の言葉を話す白猫を追って旅をする2人のロードムービー。それと同時に、幼少時に母親と死別した鈴芽の精神的成長も並行して描かれる。

 企画・プロデュースの川村元気、音楽のRADWIMPS、キャラクターデザインの田中将賀など、『君の名は。』(2016年)から3作続投のスタッフと声優も多く、こちらも新海作品でお馴染みの顔ぶれで制作されている分、観客側も安心して観ていられる。しかしその一方で、隕石の落下、降り続く雨による水害と、新海監督の過去の作品でもあった自然災害に比べ、本作では東日本大震災という現実に起きた恐怖を題材にしている。本来ならアニメーションにおける作画的な見せ場になるスペクタクルシーンが、一部の被災者にとっては、忌まわしく恐ろしい記憶を呼び覚ますのも事実だ。その日本人にとって身近な題材ゆえに、観客も鈴芽のドラマにシンパシーを感じやすいのかもしれない。

映画『すずめの戸締まり』30秒CM-すずめの涙編-【大ヒット上映中】

『THE FIRST SLAM DUNK』

 バスケットボールに懸ける不良学生の青春を描き大好評を博したテレビアニメ『SLAM DUNK』の放送終了から20余年の年月を経て、原作者の監督作品として制作された映画『THE FIRST SLAM DUNK』。2022年12月の封切りから3カ月を過ぎてなお全国で上映中と、いまだに勢いが衰えない本作だが、成功の要因は色々と考えられる。

 まず90年代に放送されたTVアニメ未見の人でも楽しめる完全新作であること。主人公チームと対戦校の試合だけに絞り込んだ熱いバスケ勝負の作品だということ。登場人物の背景は試合模様と交互に描かれる回想シーンである程度は補填されるので、原作未読の人にも優しい作りだったこと。総じて初めて『SLAM DUNK』に触れる人でも没入しやすい構成で、なおかつ原作漫画への興味を持たせる匙加減の絶妙さ。TVシリーズや原作の予備知識が求められる劇場用アニメも多い中、初見の観客を引き込めたのは本作の大きな利点だろう。既に興行収入は100億台に乗っているが、上映終了までどれぐらい伸びるかが見ものだ。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公開後PV

 前年度・第45回日本アカデミー賞で優秀アニメーション作品賞を受賞した5作品は、いずれ劣らぬ傑作だったが、興行収入が100億を突破したのが『シン・エヴァンゲリオン劇場版』1作のみだったことを考えると、本年度のノミネート作品の5作品中、3作品がこれに該当しているのは、この1年間でアニメ映画の鑑賞人口が爆発的に増えたこと、SNSの口コミが伝搬しやすい土壌になっている点もあるだろう。5作品の中のどれが最優秀賞を受賞してもおかしくないほど粒ぞろいの激戦だが、本年度の結果はいかに?

■公開情報
『すずめの戸締まり』
全国公開中
原作・脚本・監督:新海誠
出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、松本白鸚
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
音楽:RADWIMPS、陣内一真
主題歌:「すずめ feat.十明」RADWIMPS
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース:STORY inc.
配給:東宝
©︎2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公式サイト:https://suzume-tojimari-movie.jp/
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