『ガンニバル』は日本ドラマの新たな夜明けとなる 柳楽優弥の“ヤバい主人公”の圧倒的凄さ

 しかし『ガンニバル』においては、村人以上に大悟がヤバい(愛する者を守るためなら一線を越えられる、正義のための暴力をいとわない、危険な捜査や生死をかけた命のやり取りを楽しんでいるフシがある)人物であり、『ドッグヴィル』のような相互監視・疑心暗鬼を描きつつもそうした閉鎖的な圧力を粉々にするクラッシャーとして機能している。第2話で大悟が「ボケカスが!」と言いながら襲ってきた村人を必要以上にボコるシーンの怖さと来たら!

 柳楽は『ディストラクション・ベイビーズ』や『闇金ウシジマくん Part2』などで危険人物を鬼気迫る演技で魅せてきたが、彼の凄みが存分に出まくっている。柳楽自身は原作の大悟よりも若いのだが、彼がどハマりしていることでいわゆる「ナメテーター」的作品(舐めていた相手が実は凄腕だった……という作品。『イコライザー』『96時間』『サプライズ』など)の面白さまで生まれているのが興味深い。

 この部分でも象徴されるように、本作ははっきりとした善悪ではなく、大悟・村人・後藤家といった面々の「信念のぶつかり合い」が展開する物語。恵介(笠松将)には「家(家族)を守る」という責任があり、有希は話せなくなったましろのために封建的な村での生活を耐え抜く。もはやヒーローとヴィランという明確な区分けは存在しない、という主題は『THE BATMAN/ザ・バットマン』などの昨今のヒーロー映画から『僕のヒーローアカデミア』などの少年漫画に至るまで共通してみられる特徴だが、『ガンニバル』もまたそうした流れにしっかりと乗った作品といえるだろう。この前提があるがゆえに、ある意味で敵対関係にある有希と村民の加奈子(山下リオ)が「子を持つ母」として共鳴していくストーリーが成立し、ドラマ面の深みにもつながっていく。

 つまり、『ガンニバル』は立場によらず人が持っている業(ごう)をあぶりだす作品であるということ。「国内でここまでの規模の作品が作れるのか!」という妥協のなさがみなぎるエンターテインメント作品でありながら、観た後にもずしんと残るテーマ性も忘れてはいない。『ガンニバル』が日本の映画・ドラマにおける新たなる夜明けとなる可能性は、十二分にあるのではないか。

ヴィレッジサイコスリラー『ガンニバル』特集

その秘密に触れたとき、平穏な日常に狂気が忍び込む。 この村に、喰われる――。 美しい村には、ある噂がある——この村では人が喰…

■配信情報
『ガンニバル』
ディズニープラス「スター」にて独占配信中
出演:柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、北香那、杉田雷麟、志水心音、中村祐太郎、吉原光夫、六角精児、酒向芳、中村梅雀、倍賞美津子
原作:『ガンニバル』二宮正明(日本文芸社刊)
監督:片山慎三、川井隼人
脚本:大江崇允
プロデューサー:山本晃久、岩倉達哉
©2023 Disney

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