『映画大好きポンポさん』には人生の教訓が詰まっている “編集”に着眼した新しさ

『ポンポさん』“編集”に着眼した新しさ

deleteボタンが象徴するもの

 本作は、監督のジーンが一人で編集を行うが、実際のハリウッド映画では、編集者が撮影の進行と並行して作業を進める。ポストプロダクションというが、実際には撮影が始まると同時に編集ルームも稼働し始め、翌日の撮影素材を編集していくのだ。

 そして、クランクアップ後、1週間か2週間ぐらいで、編集者によるエディターズカットを作成し、その後監督との共同作業でディレクターズカットを仕上げていく。本作はこのプロセスを省いて監督自ら編集を行うが、これは作劇のための嘘である(もちろん、自分で編集する監督もいるが、これくらいの規模の作品では相当珍しいと思われる)。

 その嘘は、ジーンの人生と編集をつなぐために必要なものだったのだろう。孤独な作業である編集によってジーンが自らと向き合い、人生の大切なことに気がつくという展開が、本作で最も重要なポイントだからである。

 ジーンは編集した結果、足りないシーンがあることに気が付く。それは劇中作の主人公が大切なもののために何かを捨てる決断をするシーンだ。このジーンの気づきと編集という作業の本質、そして人生をリンクさせる展開が見事だ。

 ジーンは気が付く。自分が夢を追いかけるために様々なものを切り捨て犠牲にしてきたことを。編集することを「カットする」と表現することがあるが、まさに編集とは一本の映画を完成させるために、膨大な素材を切り捨てる作業だ。ここに本作のテーマを描くために編集をフィーチャーしなくてはならない必然性がある。

 劇中作の撮影素材は72時間。そこから90分の作品を完成させたジーンは、多くのものを切り捨てた。組み合わせは無限にある。その中からたった1つの可能性を選び取るための孤独な戦いが編集なのだ。

 ポンポさんの祖父、ペーターゼンが古いフィルムを切り貼りしているシーンがある。ペーターゼンは「こういう可能性もあったかもしれない」と物思いにふけっている。無限の可能性からたった1つを選び出し、作品にする行為である編集。それは、あり得たかもしれない別の人生を想像しながら生きることに似ている。「もっとマシな人生があったかもしれない」と人は時に悩む。だが、とにかく人は自分の人生を選ばなくてはいけない。自分が選んだ人生に自信を持つこと、そして、もっと良い編集があったかもしれないが自分が選んだつなぎに自信を持つことがリンクしていく。

 だからこそ、本作は「delete」ボタンが重要なのだ。何かを消さなければ人生を前に進めることはできないからだ。今、僕はこうして映画の原稿を書く仕事をしているが、もっと別の可能性もあったかもしれない。今の僕があるのは、たくさんの別の可能性を切り捨てたからだ。

 人生とは編集のようなもの。何かを切ることで得られるものもある。映画作りを描く映画が描き切れていなかった編集を取り上げ、なおかつ人生の深い教訓をそこに見出した点が、本作の大きな達成点だ。狭く、暗い、地味な編集ルームには、実は豊穣なドラマが眠っているのだ。

■放送情報
『映画大好きポンポさん』
NHK Eテレにて、2月4日(土)15:00〜放送
声の出演:清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一
原作:杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック)『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
監督・脚本:平尾隆之
キャラクターデザイン:足立慎吾
制作:CLAP
主題歌:「窓を開けて」CIEL(KAMITSUBAKI RECORD)
挿入歌:「例えば」花譜(KAMITSUBAKI RECORD)/「反逆者の僕ら」EMA(KAMITSUBAKI RECORD)
©2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会
公式サイト:https://pompo-the-cinephile.com/

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