『いちげき』に感じた新たな時代劇の形 『いだてん』とも重なる宮藤官九郎の巧みな構成

『いちげき』宮藤官九郎による新たな時代劇

 勝負を決するのは、一太刀。つまりは、いちげき。永遠のように長く感じる刹那。ウシの身体から滴り落ちる汗を合図にして、2人は斬り合う。互いの刃は折れ、油断した伊牟田の首をウシが「一撃!」と叫び斬り落とす。死を覚悟した瞬間の伊牟田の笑みのようにも見える表情が意味するものは何なのだろうか。ウシは妹のチヨ(西野七瀬/園との1人2役)を殺され、さらに直前にはイチも目の前で亡くしていた。そのかけがえのない家族、仲間の命を背負った覚悟、戦う理由の差が伊牟田への勝因となったとも考えられるだろう。島田(松田龍平)に言われるがままだった、淀んだ目をしていたウシが、気がつけば真っ直ぐ次の時代を見据えた目の輝きを持つ隊士に変わっていた。

 明治の世になり、士農工商から成る身分制度が撤廃され、刀の時代は幕を閉じることとなる。通りすがった百姓にかつての自身を重ねながら、ウシが持っていた刀をあげてしまうところも痛快である。宮藤官九郎による、新たな時代劇の形を観たような気がした。

■配信情報
正月時代劇『いちげき』
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
出演:染谷将太、町田啓太、松田龍平ほか
原作:『いちげき』松本次郎・『幕末一撃必殺隊』永井義男
脚本:宮藤官九郎
音楽:遠藤浩二
演出:松田礼人(TBSスパークル)
制作統括:樋口俊一(NHK)、加藤章一(TBSスパークル)
プロデュサー:塩村香里(TBSスパークル)
写真提供=NHK

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