『舞いあがれ!』浩太がついに従業員をリストラ 辛い展開の中で光る“仕事への誇り”

『舞いあがれ!』が描くリストラと仕事の誇り

 浩太(高橋克典)に厳しい選択が突きつけられる。『舞いあがれ!』(NHK総合)第62話では、ついにリーマンショックの影響を受けての“リストラ”が描かれた。

 徐々にいろんな人の実生活にリーマンショックの余波が訪れていく描写があまりにもリアルで怖い。最初は舞(福原遥)の入社延期、そしてIWAKURAへの発注数の激減。ここまでは外的なものを受けて「仕方ない」と言っていただけだが、浩太のように自分も雇い主という立場だとそこから銀行への借金の返済目処も考え直さなければいけないし、どうしてもその過程で人員削減を求められてしまう。今度は彼が従業員に通達を出し、従業員が「仕方ない」と受け入れるしかないのだ。そして、職を失った従業員は収入を失ったせいでその日の晩御飯の買い出しも今まで通りにいかなくなるだろう。そうなった時、寂しくなった食卓を「仕方ない」と受け入れるしかないのは子供たちだ。遠くの場所で起きた出来事の影響が、人々の生活の末端にまで染み込んでいく過程が実はすごく丁寧に描かれていて、打撃を受けた人のその後を容易に想像できるようになっているからこそ、辛い。

 特に自分の仕事に誇りを持っていればいるほど、それが取って代わられる仕事だと思われた時にはプライドも傷つく。何年も何年も、自分なりに良い仕事をしてきたと自信を持っていたのに。舞(福原遥)が梱包室の作業を引き継ぐことになり、そこにいたベテランのパート3人が退職することになってしまった。舞に作業を教えようというとき、彼女が「少し見たことがあります」と言うので、パートの1人である西口さん(マエダユミ)が「じゃあ、やってみろ」とやらせてみる。もちろん舞の動作はたどたどしいし、時間もかかっていた。そして何より不良品を見逃してしまったことを、西口さんは強調する。

 「素人にもできる仕事だと思われているから最初に切られたんやろ」と怒る3人。今ではAIにとって代わられる職業なども話題になっているが、彼女たちのように機械で見過ごしてしまった傷物のネジをちゃんと肉眼で見つけて除くことは、慣れた人間にしかできないのだ。池井戸潤の小説『空飛ぶタイヤ』でも描かれていたが、そういう1本のネジの不良品が大事故を起こしてしまうことを、私たちは忘れてはいけない。西口さんたちは、それを十分理解した上で覚悟を持ってこの仕事をしていた。

「お嬢ちゃん、これだけは覚えておき。商品梱包の仕事は最後の砦や」

 ここの職人は良いネジを作るのに、自分たちが見逃した不良品一つでその印象を変えてしまうから、と力強く言う西口さん。どんな仕事をしていても、彼女のこの言葉はいつも心にしまっておきたい。責任を持たなくて良い仕事なんてない。むしろ自分がどんな仕事でも責任を持ってやれば、それは誇りや自信となり、それが自分をより良い仕事ができる人間に導いてくれる。

 このご時世なら仕方ないと、一緒に働いてきた浩太の苦渋の決断を理解し、受け入れる3人。彼女たちの仕事にかけていた情熱を理解していたからこそ、岩倉家の面々は頭を上げることができなかった。浩太はずっと、頭を下げていた。

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