『舞いあがれ!』“悪者”を登場させない物語の違和感 試験中の恋愛はあり?

『舞いあがれ!』試験中の恋愛はあり?

 それにつけても思うのは、こういうとき、物語のなかで誰かが咎める人物がいていいはずが、まったく存在しないことである。いまの段階ではささやかなふたりだけの秘密であるとはいえ、逆に、周囲にバレバレにしたうえで、誰かに、いまそんなことしてる場合なのか?と問わせてもいいのではないか。その役割を大河内に託せば、ふたりが極めて常識的な厳格さしかもたない彼に対抗意識を燃やすことにも説得力が出る気がするのだが、そうはならない。誰かを悪者にしてはならないという強烈な抑止力が物語に働いている。誰かを注意したり誰かの言動を阻んだりする行為がハラスメントになりかねないからだ。

 近年、多様性を「重要視」するあまり、物語のなかに「相対化」という概念が失われかかっているように感じる。AとBをあえて相対化させることでそれぞれの考えを際立せる方法論が、単なる浅い対立、勝負、善悪と捉え過ぎて、何者をも敗者や悪にしてはならないという考えのもとに排除することによって、逆に人間、ひいては物語に深みがなくなってはいないだろうか。人間の多様性を描こうとして逆に単純化していく沼に陥ってはいないか。ただ、いまは人間の捉え方の過渡期と考えて、これからひとりひとりの多様性の物語が天高く舞いあがっていくことを期待したい。そういう意味では、なにわバードマン編は大学生ながら、サークルの面々の描写は相対化しない多様性の理想に近づいたものといえるだろう(由良と舞にはやや相対化が存在していた)。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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