『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』リアーナが紡いだ“新しいテーマ”を考察

母性の物語としての『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』© 2022 MARVEL.

 チャドウィック・ボーズマンの死を乗り越え、ライアン・クーグラーは根幹からプロットを修正して、ティ・チャラ不在の物語を創り上げた。ティ・チャラ亡きワカンダを守る戦士たちに、ラモンダ(アンジェラ・バセット)、シュリ(レティーシャ・ライト)、ナキア(ルピタ・ニョンゴ)、オコエ(ダナイ・グリラ)といった女性たちを配置したのである。ここまで複数の女性キャラが活躍するのは、MCU映画でも初めてのことだろう。

 同時にライアン・クーグラーは、彼女たちが母親であるという側面を強調した。一国の女王といえど、愛娘シュリが誘拐されたと聞けば、ラモンダは激しく動揺して“母親”としての面を覗かせてしまう。子供を愛し、子供を慈しむ親としてのリアルな感情を、あえてインサートしてみせたのである。そう、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、何よりもまず母性の物語として認知すべき作品なのだ。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に刻まれた“3つの進化”

アメリカ映画なのにアメリカは蚊帳の外である。ブラックパンサーはアフリカの秘境で高度な科学技術をもつ架空の王国ワカンダの王であり、…

 前作でライアン・クーグラーは、ケンドリック・ラマーに“民族の物語”の音楽を託した。では、“母性の物語”の音楽は誰に託すべきなのか? その答えは、難しいものではなかった。時代のアイコンにして稀代のR&Bクイーン、リアーナである。音楽プロデューサーのルドウィグ・ゴランソンは、「この映画は、基本的に母性について描いたものだ。彼女(リアーナ)のキャリアや私生活の状況とつながっているんだよ」というコメントを残しているが、まさしく映画のテーマに即した人選だったことが伺える。(※3)

 リアーナは、1988年にカリブ海の小さな島国バルバドスに生まれた。その圧倒的歌唱力が認められ、ジェイ・ZがCEOを務めるレーベル「デフ・ジャム」と16歳で契約。その後は押しも押されぬスーパースターへと上り詰めていったことは、皆さんご存知の通り。だが彼女は、8thアルバム『Anti』をリリース後、表舞台から完全に遠ざかっていた。本作の主題歌「Lift Me Up」は、何と6年ぶりの新曲。「チャドウィック・ボーズマンに哀悼の意を捧げたい」という想いで、今回のオファーを受諾した。(※4)

Rihanna - Lift Me Up (From Black Panther: Wakanda Forever)

 <Keep me in the warmth of your love, When you depart, keep me safe(あなたの愛の温もりで、私を守って。あなたが旅立つなら、私も安全に連れて行って)>と歌われる「Lift Me Up」は、文字通り今は亡き人のことを想って歌われたバラード。その歌声はいつものように力強いが、子守唄のように優しくもある。彼女は今年の5月に、ラッパーのエイサップ・ロッキーとの間にできた子供を出産したばかり。今までにはなかった“母性”が、このナンバーには息づいているのだ。

 ケンドリック・ラマーが紡ぐ“民族の物語”から、リアーナが紡ぐ“母性の物語”へ。『ブラックパンサー』シリーズには、作品のテーマが主題歌に色濃く刻まれている。

参照

※1. https://www.npr.org/sections/allsongs/2018/02/21/587334273/black-panther-the-album-is-kendrick-lamar-s-parallel-pan-african-universe
※2. https://www.thefader.com/2018/02/08/kendrick-lamar-black-panther-soundtrack-ryan-coogler
※3. https://screenrant.com/black-panther-wakanda-forever-ludwig-gransson-interview/
※4. https://rollingstonejapan.com/articles/detail/38689/2/1/1

■公開情報
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎Marvel Studios 2022

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