『アダムス・ファミリー』とは別物として楽しみたい スピンオフ『ウェンズデー』の可能性
コメディドラマ『アダムスのお化け一家』や、アニメーション、実写映画シリーズなどの派生作品が製作され、日本でもタイトルの認知度が高い、アメリカのカートゥーン作品『アダムス・ファミリー』。奇怪なユーモアに溢れたオカルト趣味の家族を描いた内容と、愛らしくもダークな雰囲気に包まれた作風は、いまなお多くのファンに愛されている。
『ウェンズデー』は、そんな怪しい一家、アダムス・ファミリーの長女を主人公にしたスピンオフ配信ドラマである。話題となっているのは、『アダムス・ファミリー』に多大な影響を受けた鬼才ティム・バートンが、製作総指揮と複数のエピソード監督を務めているということ。そして、まるで『ハリー・ポッター』シリーズを思い起こさせる、学園を舞台にしたファンタジックなミステリー作品であるということだ。
黒いおさげ髪にモノトーンのゴシック風ファッション、無表情で冷静に皮肉を放つ残忍な少女、ウェンズデー・アダムス。その名の由来は、「水曜に生まれた子は悲しみがいっぱい」という、マザー・グースの歌の不吉な一節が由来になっているという。今回そんなウェンズデーを演じるのは、20歳のジェナ・オルテガ。少女のようにも見えながらも、これまでのシリーズよりも大人っぽい魅力を放っている。
90年代にバリー・ソネンフェルド監督が手がけた実写映画シリーズでは、クリスティーナ・リッチがウェンズデー・アダムスを演じて人気を集めたが、本作『ウェンズデー』では、そのクリスティーナ・リッチが別の役で出演しているのも見どころだ。ルームメイトになるイーニッド(エマ・マイヤーズ)をはじめ、学生役のフレッシュな俳優たち、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じる、母モーティシアの迫力、これまでにない豪快なイメージで、ルイス・ガスマンが父ゴメズを演じるなど、キャストの妙が楽しいドラマでもある。
物語は、弟パグズリー(アイザック・オルドネス)をいじめた学生たちが泳いでいるプールに、ウェンズデーが人食いピラニアを投入したところから始まる。ウェンズデーは放校処分となり、のけ者ばかりの寄宿学校「ネヴァーモア学園」に転入することとなった。“Nevermore(ネヴァーモア)”とは、「ここでダメなら、もうこの先はない」という意味にとれるのと同時に、このフレーズは、エドガー・アラン・ポーの文学『大鴉』に登場する不吉なカラスが投げかける言葉でもある。
ネヴァーモア学園には、他の環境では馴染めなかった個性的な子や陰気な子たちだけでなく、「ヴァンパイア」、「人狼」、「セイレーン(海の怪物)」など、生物的な意味でのマイノリティも多く存在する。学生が派閥に分かれ、ときに対抗心を燃やしているところは、まさに『ハリー・ポッター』風だ。しかし本作は、そこで起きる軋轢や違いにはさほどフォーカスせず、あくまでウェンズデーと、その周辺の数人の物語を描いている。
だから、学生同士の確執について『ハリー・ポッター』同様の展開を期待すると裏切られることになるのだが、学生みんなが社会から阻害された者たち同士という設定を考えると、それも理解できないことはない。多くのティム・バートン監督作は、マイノリティであったり、「普通ではない」と迫害される者にこそ、温かい目を向けてきたからだ。