ストップモーションが日本アニメ市場で放つ新鮮な輝き “物としての実在感”が魅力に

 日本はアニメ大国と言われる。だが、この国は、あらゆるタイプのアニメーションが盛んというわけではない。アニメーション市場は確かに巨大だが、その巨大市場のほとんどを手描き2Dアニメ作品が占めている。

 しかし、本来アニメーションという技術は、コマ撮りによって動きを作り上げていく手法全般を指すもので、決して絵を動かすことだけを指すわけではない。日本独特の感性によって発展したアニメは、それはそれで大事にすべきものだが、アニメーションの可能性は他にもある。

 そういう国だからこそ、ストップモーション・アニメーションの『PUI PUI モルカー』(以下、『モルカー』)の流行はインパクトがあった。そのほか、Netflixで配信中の『リラックマとカオルさん』、『リラックマと遊園地』シリーズなど、ストップモーション・アニメーション作品を観られる機会が少しずつだが増えてきている。昔から、アートアニメーションの領域や教育番組、CMなどの短尺映像で一定の需要があったストップモーションは、ここにきて、その魅力の認知が拡がっているようだ。

 ストップモーション・アニメーションは、ドローイングのアニメーションとは異なる魅力を放つ。それは何かをここで紹介することで、この流れを援護射撃したいと思う。

実写とアニメーション双方に足跡を残すストップモーション

 ストップモーションという技術は、静止している物体を少しずつ動かし、1コマずつ撮影する手法だ。日本語ではコマ撮りと言われるが、アニメーション作りの根幹を成す技術と言える。

 2Dの絵のアニメーション作品も、一枚一枚の絵を撮影して連続して映し出しているものなので、それが絵なのか、人形などの物体なのかの違いでしかなく、ドローイングのアニメーション作品も広い意味ではコマ撮りだ。もっと言えば、実写映像も、1秒24コマのコマ撮りを自動化しているに過ぎず、映像の原理は全てコマ撮りと言ってもいい。

 その技術を本来動かない物体を動かすことに用いたものが、一つのジャンルとして発展していき、ストップモーション・アニメーションと呼ばれる。この技術自体はアニメーション作りの根幹でもあるし、実写映画のVFX技術としても重宝されてきた。ストップモーションは、実写とアニメーション双方の歴史で発展してきた技術である。

 1933年のアメリカ映画『キングコング』では、コングはストップモーションによって動きをつけられている。以降もハリウッド大作映画ではストップモーション技術が使用され、レイ・ハリーハウゼンやフィル・ティペットなどのVFXの巨匠たちが名を馳せることになる。『スターウォーズ』や『ロボコップ』、『ターミネーター』の一部のシーンでもストップモーションが利用されている。3DCG技術が本格的に台頭するまで、大作映画には欠かせない技術でもあったのだ。

 ストップモーションは1コマずつわずかな動きをつけて撮影する必要があるため、膨大な時間を要する。日本映画の場合はその手間暇をかけられないために着ぐるみスーツアクターによる表現を洗練させていくこととなった。その分、ストップモーションという技術が活躍できる機会は、アメリカと比べると少なかったかもしれない。

 アニメーションの分野では、チェコや旧ソ連などの共産圏でストップモーション・アニメーションが盛んに制作された。特に、チェコは元々人形劇が伝統的に盛んだったこともあってか、人形によるストップモーション・アニメーションを数多く制作したことで知られる。

 近年では、イギリスのアードマンやアメリカのライカ、実写映画も手掛けるウェス・アンダーソン監督などが長編ストップモーション・アニメーションを制作しているし、前述したフィル・ティペットがライフワークとして制作している『マッドゴッド』が日本では12月2日から公開される。ライカはCGや3Dプリンタなどの新技術を取り入れ、ストップモーション・アニメーションに新たな感覚を取り入れ、今世界で最も注目されるストップモーション・アニメーションのスタジオとなっている。

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